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ステンドグラス越しに差し込む光。 柔らかな冬の光線。 宝石色の淡い光に彩られたクラシカルな室内は、この場にいる時に外界を思い出すことすら勿体無い、と思う程に綺麗で、まるで天上のように心が洗われる気分になった。 しかし、御剣のほうは何処か落ち着かない。 話がある、と言われてついてきた成歩堂だったが、御剣の態度にここにきてようやく、話というのはとても重要、というより『重たい』話なのでは、と思い至る。 館に入った時にコートは脱いでいたが、それでもこの場が暑いのか、それとも、話をする前に落ち着こうとしたのか、御剣は上着も脱いだ。 成歩堂は上着を脱ぐ、というただそれだけの行為に、邪な妄想をしてしまった己を少しおかしく思った。 だが、一度はじまった妄想は止めることが出来ない。 御剣が正面に立つ。 目と目が合う。 見つめあう。 先にそらしたのは、御剣。 わずかに頭を垂れる。 それはあまりにも近い距離。 彼の長い前髪が成歩堂の顔に触れるか触れないか。 微風の吹く外ならば確実に触れている。 微かに漂う彼の香りに鼻腔をくすぐられ、成歩堂も落ち着かなくなる。 御剣が小さな声で、成歩堂に語りかける。 抑揚はないが、丁寧に。 彼の軌跡を。 成歩堂は言葉をはさまずに、黙って聴いた。 最後まで聞いて、成歩堂は言葉を考える。 複雑な気持ち。 彼の傍にいなかった過去について、知らない彼の行動について、感想を述べるのも、同調するのも、責めるのも、何か違うと思った。 「御剣、それで、きみはこれからどうするの?」 過去よりも、これから。 そして、御剣の行動よりも、気持ちを知りたいと思った。 「これからも、私は今まで通りだ。そして、ここが最も重要だと思う」 御剣は言葉を止めて、 「きみが好きだ」 成歩堂は呆気に取られて、喜んでいいのか、笑っていいのか、それとも突っ込みをいれたほうがいいのかすぐに行動が取れない。 「あのねぇ、御剣。君のこと、今、全くわからないよ」 成歩堂は表情が崩れた。 「ぼくはきみがぼくのこと好きって知ってる。何度も確認した。でなけりゃ、あんなことするわけないだろう」 御剣の腕を取り、俯き加減の顔をのぞきこむ。 「ぼくもきみが好き。覚えておいてくれよ」 御剣が重々しく頷いた。 「わかっている。だが、きちんと私自身のことを話したことがなかったと思ってな」 「そうだね。嬉しいよ」 本当は何より嬉しかったのは、最後の言葉だったのだが、その感想は成歩堂は心の中に留めて置いた。 「キスしてもいいかな」 御剣が目を閉じる。 ゆっくりと成歩堂は顔を近づける。 視界に光が満ちる。 御剣の唇に触れ、成歩堂も目を閉じた。 |