浪漫街道 「ただいまぁ〜。御剣〜」 カレーの匂い。 成歩堂はどきどきしながら、靴を脱ぐ。あわてすぎて、玄関で足をひっかけこけそうになった。 「いい匂い〜」 今日は既に出来上がりつつあるようだ。 「おかえり」 振り返った御剣は、成歩堂が買ってきておいたエプロンをしていた。 フリルがたくさんついた、いつもの天才検事の襟元が全体に広がったようなエプロン。 「うん。こっちのほうが断然、御剣らしいよ」 「うむ。君にしてはまともな選択だ」 普通の男なら決して着れません、といったエプロンなのだが、御剣は御満悦のようだ。 『こんなもの着れるか』と怒り出すことも予想していたので、成歩堂はほっとした。 「あのような地味なものはやっぱりどうもな」 そして、じろり、と成歩堂のスーツにも目を向ける。 「君のそのスーツもあまり趣味がよくないな」 「いや・・・ぼくはこのくらいで・・・あはは」 「では、成歩堂。風呂にするか?夕飯にするか?それとも・・・」 「もも、勿論、御剣だよっ」 え、早速誘ってるの、ラッキーと成歩堂は御剣を抱き締める。 「・・・なるほど・・・君は・・・私の料理をすぐに食べたくはないのだな・・・」 「えぇっ?」 これは新婚にありがちな『お風呂にする?ご飯にする?それとも私?』という展開ではなかったのか、勘違いした成歩堂、ピンチ。 「着替えるより先に食べたい、というくらいの意思が欲しかったな・・・私としては」 怒られる、よりも、その遠い目のほうが成歩堂にぐさっと突き刺さった。 それともという言葉の後は『着替える?』ということだったのだ、とようやく気づいた。 「御剣、そのエプロン似合ってるよ。さすがだね」 「そうか」 フリルをひっぱって、御剣はにっこりと笑った。 「しかし、この布はなんだな・・・少し安っぽい感じだな」 「それは、難燃性だからだよ」 「ふん・・・わかってる・・・早く、手を洗って来い」 成歩堂はほっと肩の力を抜いた。 −服脱いでエプロンだけつけてって言ったらやってくれるかな? でも、御剣の御機嫌を損ねるかも知れないから、今は止めておいたほうがいいよ、とトンガリ部分から野性の勘がおりてきた。 ひょっとして、最中に頼んだら、つい頷いちゃうかも知れない− 黒いたくらみを腹に秘め、弁護士はいつもの笑顔で食卓についた。 「うん。今日も凄く美味しいよ、御剣」 「そうか?当り前だが・・・」 その後で、検事も美味しく頂かれてしまったことは言うまでも無い− |