セピア色 同窓会− 賑やかな人々の群れ。 幾つかの同じような会場。 集まる人々もまたさまざまな年齢、吸い込まれるように目指す会場に入っていく。 眩暈を起こしそうになって、御剣は踵を返そうとした。 その背に成歩堂の両手がかかる。 「ほら、そこだよ。そっちじゃない」 回れ右、とさせられて押されていく。 二人の姿を見つめる人々の視線には気づかない。 「ほらほら」 「おお、久しぶり」 「すぐわかったよ」 会場に入ると、かっての同級生達が集まってきた。 成歩堂に、御剣に声をかけ、肩を叩き、笑いかける。 二人も記憶を頼りに思い出話に耳を傾ける。 誰が結婚した− 何をやっている− 何処に住んでいる− 最初はかたかった御剣の表情も柔らかくなっていた。 閉会近くで二次会への誘いの話も幾つも出ていた。 一本締めで盛んな拍手とともに会が終わった。 「成歩堂?」 酔っているのか、成歩堂は強い力で御剣の腕を引っ張って進んでいく。 エレベーターの手前で御剣は手を振り払った。 「成歩堂!」 「階段でもいいよ」 何故かそこでいつもの微笑みを浮かべてきたので、御剣はいぶかしく思うとともに、安堵の気持ちも生まれた。いつもの彼である、と。 階段を降りながらも成歩堂は何も喋らない。 「二次会はいいのか?」 つきあいのいい成歩堂は二次会には行かないのだろうか、と御剣は聞いてみた。 「行きたい?」 何故か喧嘩腰に聞こえる。誰かと喧嘩でもしたのだろうか。 「どうかしたのか?おかしいぞ」 「別に」 声をかけてくる友人達を成歩堂は笑顔で片手を振って確実に追い払う。御剣は成歩堂の背中を眉間に皺を寄せて眺めているので声をかけられていることに気づかない。 二人は地上に降りた。 「怒っているのか?」 御剣の出した結論に、成歩堂は苦笑いした。 自分自身も大人げないとわかっているのだ。 「そう。でもどうして怒っているのかわからないでしょ」 御剣はまるで法廷にいるかのように重々しく頷いた。 「きみが簡単に携帯を教えたりすることに嫉妬してた」 ぼくはここに辿りつくまでに何年もかかったのに− 「昔と今の君は状況が違うってわかってるのに」 誰よりもわかっているのに。わかっていなければいけないのに− 「携帯の番号くらい…」 御剣は成歩堂の言葉に最初は呆れ、ゆっくりかみ締めてから、嬉しくなった。 「何と言っていいのかわからないが…何となく、嬉しいかもしれない」 成歩堂は照れたように頭をかいた。 「もう一軒、行こうか。のみたりないでしょう」 「そうだな。二人で」 いつものように仲良く連れ立ってネオンの下を歩いていった。 現場近くにいた数人の同窓生によってその話はいろいろと根や葉がついて、しまいに花まで咲いた状態で広まっていったことは後日、二人の知るところとなる。 |