手紙 「御剣、その格好で登山するのかい?」 どうして自分が山に登るのかはわからない、しかしそれより不思議なのはいつもと同じ格好の検事。 これから登山ではなく、パーティに出かけるような隙のないいでたち。 襟元はひらひらだし、高価そうな真紅のスーツも決して労働向きではない。 腕を組んで、御剣は言う。 「きみは、私にあのような格好が似合うと思っているのか?」 「似合わない」 思わず正直に答えた成歩堂に、御剣は気を悪くしたふうでもなく頷いてみせた。 「さぁ、では登ろうではないか」 恋人が行こう、というのだ、成歩堂はついていくしかない。 彼と自分の行く手には世界にも有名な、日本で一番高い山。 頂上は雲の上、別世界の山。 暫く登るうちに段々成歩堂は無口になっていく。 御剣は成歩堂が話しかけない限り、無駄な話はしようとしないから、何時の間にか無言になっていた。 疲れて、膝に手をついて頭を下げる。 見るとはなしに見つめた地面に動く影を見つけた。 −なんだろう 空を見上げると、頭上高くに旋回する鳥の影。 「疲れたのか?」 先をいっていたと思っていた御剣が側に立っていた。 成歩堂の頬に白い手が触れる。 成歩堂はその手に手を重ねた。 「ううん。君がいるから大丈夫」 にっこりと笑ってみせる。 「あれが気になっただけ」 太陽の光が眩しい。 成歩堂の指先を見つめる御剣が目を細める。 「鷹・・・だろうか」 「鷹・・・何だか縁起いいね」 天高く舞う鳥。 目の前、自分の下に踏みしめている土地。 「一富士二鷹…あと茄子があれば完璧だね」 「……」 「何?御剣」 御剣が微笑む。それは少しだけ淫靡に見え、成歩堂はどきりとした。 「あるではないか」 「え?」 御剣の視線を感じる。 下半身が疼く。 「み、御剣・・・」 「あぁ・・・?朝?え?」 いつもの自分の部屋。 朝陽が細いカーテンの隙間から差し込む。 新年−の光。 一月二日。 成歩堂は枕の下に手を入れる。 折れないように透明のプラスチックに挟んだ一枚の葉書。 −御剣からの年賀状 彼に手紙を出したのは数知れず。 彼から来た返事はない。 彼から貰った手紙といえば− 成歩堂は溜息をつく。 今年の年賀状を手製の容器から取り出す。 大切にそっと撫ぜる。 手書きの文字に指をのせる。 御剣が書いた文字。 成歩堂の口元が緩む。 「御剣、今年もよろしく」 「こちらこそ」 「え!?」 ばっと振り向くと、そこには夢の中と同じ姿の御剣。 優雅に御辞儀をしてみせた。 白い指にひっかかっているのは成歩堂が渡した鍵。 「起こしては悪いと思ってな」 成歩堂の手招きに呼ばれて、御剣はベッドの端に腰掛ける。 「いい夢見たんだ」 「そうか」 御剣は肩に乗せられた成歩堂の頭を撫でる。 「一富士二鷹だった。それに御剣も出てきた」 「あとは茄子だけだったな」 「それが…茄子は…」 あるにはあったんだけど、と成歩堂は苦笑する。 「なら、この上なく縁起がよいな」 「御剣がね、僕のがそうだって」 成歩堂の言葉の意味がわからず、御剣の眉間に皺がよる。 成歩堂が御剣の手をとって、己のきざし始めていた股間に導く。 「これがね」 「!!私がそんなこと言うわけないだろう!」 「だから、夢の中の御剣が」 「夢の中なら、きみのせいだろう!」 次第に生育する成歩堂の分身。 御剣のその気はなかったが、こんなにもストレートに求められてしまうと、情がわかぬわけがない。 成歩堂のことが好きなのだから。 「今年もよろしく」 御剣は成歩堂の唇に触れた。 それから、成歩堂のパジャマを引き摺り下ろした。 「みつるぎ?」 「したいのだろう?」 成歩堂の上を向いた雄に唇をあてた。 白い指が支えるように、全体を包み込む。 ゆっくりと愛撫を開始し、成歩堂はその動きに吐息を漏らす。 「御剣…服が」 御剣は前髪の間から見上げて、目を細めた。 成歩堂の雄を追い上げる。 昇りつめる感覚、熱くなる下半身。 留めることの出来ない波。 柔らかで熱い咥内に含まれて、成歩堂の今年初の精が弾けた。 御剣が微笑みを浮かべたまま優雅な仕草で口を拭う。 ディナーの後のように。 「これで終わり?」 成歩堂は息も整わぬまま、微笑みを浮かべて御剣の手を掴む。 白い指先に唇を落とした。 「そんな筈はないだろう」 御剣が上着を脱ぐ。 殊更ゆっくりと時間をかけて全てを脱ぎ去った。 「私を満足させてくれるのだろう?」 「勿論」 御剣の身体を成歩堂は抱き締めた。 「姫初めかな」 成歩堂の言葉に御剣がふふ、と笑って、成歩堂の額を弾いた。 今年も熱い一年になりそうだ。 |