写真 乱れた髪、閉じた瞳、先程まで甘い言葉を紡いだ唇は僅かに濡れて。 満足した表情で眠る御剣の顔を、成歩堂は息を潜めて見つめる。 顔を極限まで近づけて− 綺麗、だと思う。 白い、青白いというかも知れない−肌。 つやつやの髪。 見下す視線にも成歩堂は反応してしまう。 ほとんどの場合、毒しか吐かないのでは、と思われる唇も、キツイ言葉を吐いている瞬間さえ、キスしてやりたくなる。 御剣に狂ってる、と思う。 自分の中の唯一の存在、自己の一部として、彼は成歩堂の中に根を張っている。 心の中から御剣を引っこ抜いたら、ぽっかりと穴があく。 息をひそめて、成歩堂はシャッターを切る。 小さな画面に、制止した御剣の姿。 フラッシュを焚いたら、さすがに起きてしまうだろう。 成歩堂が、灯りをつけたまま行為を押し切ったのはこの為− 白い首筋に噛み付くようなキス。 互いをへだてる服をじれったく脱がしあって。 襟元から出ない部分に、痕が残る程、成歩堂はきつく吸い付いた。痛みと快楽に、御剣が眉をひそめる。押し殺した息を吐く。 「明かりは消さないのか?」 「御剣が見たいから」 「私もキミが見たいから、このままで構わないが」 御剣の吸血鬼のように白い、と評される肌に、成歩堂はまるで自分が吸血鬼のように再度、首に歯を立てる。 御剣がどれだけで満足するのか、限界なのか、成歩堂には未だわからない。 それだけは何度行為を重ねてもわからないかも知れない。 成歩堂の限界まで、穿って、貫いて、奪っても、翌日に御剣が疲れた様子をしていることがなかった。それは高いプライド故に、成歩堂にもわからない程、上手に隠すのか、本当にその位は何ともないのか。 成歩堂もそれなりにプライドはあるし、内容が内容なのでさすがに追求は出来ない。 案外、簡単に答えてくれる気もするが、その答えに自分がへこむ可能性を考えると、どうしても口に出来ない。 そこで、御剣を何度も快感においやってから頂いて、限界を知ろうとしたのだが、どうにも、うまくいかない。もう、しつこいくらいしようと思う前儀の途中で、御剣の色気と彼からのキスや愛撫に負けて、まだ御剣を一度も達しさせてないうちに、結合してしまうのだ。 そして、内部の気持ちよさに、すぐに果ててしまう。 −大抵、御剣より先に。 御剣のもの自身へ愛撫しながら腰を動かせば、一緒に達したりするのだが、それ以外だと己が早いのか、と思いつめる程、御剣の絶頂は遅め。 唯一の救いはその間も御剣は気持ちよさそうなので、感じてはいるようだ。 成歩堂は御剣の白い胸の中の彩りを指でこねるように愛撫し、反応を伺う。 敏感な様子を見せ、薄く開いていた目をぎゅっと閉じて、御剣が息をはく。成歩堂の身体をまさぐるように動いていた手の動きも一瞬止まる。その瞬間に成歩堂はシャッターを切る。すぐにベッドの片隅にカメラを押しやり、両手で御剣の頬をはさみ、唇を重ねる。 舌が絡まりあい、粘膜同士のふれあいに、その先を予想した身体が反応する。それは御剣も同じだったようで、既に御剣の両脚の間に侵入していた成歩堂を片足だけでなく、全て受け入れるように自ら膝を立てた。成歩堂はそれを更に押し開く。 御剣の指が成歩堂の唇に触れる。成歩堂は赤い舌を出し、白い形良い指先を味わう。丹念に濡らされた指を、御剣は己の秘所にあて、ゆっくりと挿入する。その暫くの間、成歩堂はお預けをくらった犬のように忠実に、御剣の許可を待つ。髪に触れたり、軽く身体に触れるだけの愛撫をして、楽しみながら。 目を瞑って、己を寛げる御剣。 成歩堂はそっとカメラを手にする。三度シャッターをきって、また隠した。 まだ御剣は気づいていない。 御剣の指が増え、くちゅくちゅと粘着な音が聞こえてきた。 成歩堂は御剣の腿の間に顔を寄せる。大腿部に舌を這わせる。白い指が出入りする場所、小さな窟を間近で眺める。御剣の指の動きがスムーズになる。指一本が入ることがやっとだったそこが次第に拡がって、仕舞いには成歩堂を受け入れられるようになるところにいつも感動していた。 白い指が引き抜かれた。 濡れたそこはゆっくり収縮していく。 御剣が目を半ば開いた。 長い睫の下から、成歩堂に微笑を送った。 それが合図。 猛る分身に手をそえて、成歩堂は灼熱の入り口に狙いを定める。 御剣の両手が成歩堂の背に回され、距離を縮める。 傷つけぬようにそっと侵入を果たした。 一回目は文字通り、あっという間で。 繋がったまま、御剣を追い上げた後、二度目に突入。 体位を変え、互いに快感を与え合った。 御剣の中に三度目を放出したところで、結合を解いた。 キスして、抱き締めあって、暫しの余韻に浸る。 明日に備えて、おやすみを言って、手を繋いで眠りについた。 この後、成歩堂は御剣が寝入ったことを確認して、最後の写真を撮った。 成歩堂の悪行は一週間もせずにばれてしまう。 「どういうことか、説明して頂こう」 証拠品のカメラを成歩堂の前に置く。 「その・・・えぇっと。御剣の写真が欲しかったんだ」 「だからと言って、この写真である必要はないだろう!!」 大激怒で頬が紅潮している御剣。その中には怒りだけでなく羞恥も混じっているだろう。最中のあられもない姿や、顔がうつっているのだから。 「ごめんなさい」 「消すぞ」 御剣はまだデータを消去してはいなかった。確かにうつっていた、証拠として。 「待った!」 「待ったもなにもあるか!」 成歩堂は慌てて、御剣の手からカメラを奪う。御剣がそれに手を伸ばし、もつれあって、床に転がった。 「だって、オカズに使おうと思ってたんだ。毎日会えるわけじゃないでしょ」 「だからといって私の写真・・・」 そこで御剣は言葉を失う。成歩堂は御剣の姿でないと欲求の対象とならない、と言っているのだ。恋人として、それを否定するのはどうかと、躊躇った。 「そう、御剣じゃないと意味がない」 御剣は己だったらどうするか、と考えた。 「私ならキミの写真など使わない」 「他のもので代用するの?」 「私を愚弄する気か!」 更に御剣は激怒した。成歩堂の言葉は浮気しているのか、ということと同義にしか聞こえない。 「私はキミの姿を覚えている。その言葉を一言一句相違なく。キミの声を、その行為を。君の中には私の記憶はないのか」 「御剣」 成歩堂は感動した。御剣の中にも確かに自分がいるのだ。 「あるけど、ぼくは形がないと不安なんだ。君はすぐに何処かに消えてしまいそうだから」 赤く染まった頬に成歩堂は指を滑らせる。 「また、君がいなくなったら・・・ぼくの手には何ひとつ形あるものは残らない」 「写真が欲しいのはいけないことかな?」 気弱に、切なそうに成歩堂は御剣の様子を伺う。 「…本人の許可が必要だ」 「捨てないで下さい」 「条件がある。お前の写真も入れること。写真を出力しないこと。そのカメラを見える場所に置かない」 枕元に転がしていたのが見つかった原因。その点は成歩堂も反省した。 「勿論、お前の写真も…このようなものを要求する」 「え…(汗)」 「出来ないのか?無論、写真を撮るのはこの私だ」 そこで御剣は極上の笑顔を浮かべた。 「わかった。それで、捨てないでくれるなら」 オカズ、というのも目的の一つだったが、本当の目的は御剣の姿態を眺めながら、自分を高めつつ、同時に耐える練習をすることだった。とりあえず、真の目的を悟られずに済んで、成歩堂はほっとした。 |