Shrine 「初詣行こうよ」 当り前のように連れ立って、家を出た。 真夜中の道は人気はない。 互いの歩く速度を知っている。 何時の間にか、どちらが遅れることもなく、待つこともなく歩けるようになった。 無意識に身体が覚えた幾つものこと。 暗闇に浮かぶ白い吐息。 「初めてだね」 主語のない言葉に含まれる意味もわかるようになった。 「そうだな」 『一緒に神社に初詣をすること』が初めてだった。 たくさんの『初めて』を重ねて、現在の二人がある。 初めて、のいろいろな経験に対する胸の高鳴りもあった。 些細な『初めて』でもその高鳴りも、最初の記憶の鮮やかさは色あせていない。 −初めての電話 −初めてのメール −初めてのデート 初めての夜− そして、初めて向かい合った法廷も、決して記憶から失われることはないだろう。 すれ違いもあった。 喧嘩もした。 逢えない日々も長かった。 それでも、たくさんの思い出があったから、互いを思い出すことが出来た。 『独りではない』と思うことが出来た。 「今年も宜しくね」 「こちらこそ宜しく頼む」 神社が近づくにつれ、人々の姿が増えてきた。 境内に入る頃には何処からそんなに集まってきているのか、不思議なくらいのひといきれ。 成歩堂は御剣のコートの袖を掴む。 「見失わないように」 「大丈夫だ」 「本当は手を繋ぎたいんだけど、きみは恥ずかしいでしょ」 たくさんの人々。 数え切れないほど人間がいても、『彼』はたった一人しかいない。 御剣は揶揄するでもなく、笑みを浮かべるでもなく、真顔で告げた。 「きみを見失うわけがない」 −きみはたった一人しかいないのだから 「それって凄いね…嬉しいよ」 成歩堂は照れて少年のように笑った。 「私を見失うことのないようにな」 御剣はまっすぐと前を向く。 一瞬だけ、成歩堂はその端正な横顔に見惚れた。 すぐに成歩堂も前を向く。姿勢を正して。 成歩堂はコートにかけた指をはなし、御剣の指先を探った。 御剣の指が成歩堂の指を見つけて、絡みつく。 指先を絡めて、境内を歩いていった。 彼等がその手を離したのは神の御前で手をあわせた時だけだった。 そして、ある意味で善良すぎた彼等が祈るのは自分達のことではなく、犯罪がなくなるように、とか平和であるように、などという不特定多数に向けた曖昧な願いだった。 「ぼくたちはぼくたちで何とか出来るもんね。ぼくはこれ以上願いなんてないよ」 「そうだな。そう考えると個人的には叶えてもらえそうな願いはないしな」 「御剣と一緒にいれればいいよ。これは御剣が嫌って言わなければ叶う願いだよ」 「嫌だったら、今も隣にいるものか」 ある意味で不敬で傲慢な言葉を吐きながら、家路につく二人であった。 暖かな室内。 冷えた身体の強張りがとける。 それでもまだ芯までは熱くなれない。 「冷えたよね。熱いシャワーでも浴びようか」 「…それよりも」 御剣は成歩堂の耳元で囁く。 甘く響く声で、成歩堂が拒みきれない提案を。 どんな代償が待っていたとしても成歩堂は拒めないだろう。 実際のところ、自身が払うとすると代償は翌日の気だるさくらいのもので。 そんなものは手に入れられる誘惑の時間に対して支払ったともいえないくらい微々たるもの。 「御剣は大丈夫?」 御剣の身体を心配してみるものの、もう成歩堂の頭の中には彼の艶かしい姿態が鮮やかにえがかれていて、正直に欲望も反応をはじめている。このまま大人しくさがれないほどに。 御剣は成歩堂の首に両腕を回して、甘えるように耳を噛んだ。 「寝室へ行こう」 成歩堂は何度も首を縦に振る。 その欲に浮かされた瞳に御剣はいっそう自身の熱が昂ぶるのを感じる。 成歩堂に求められている、という事実、成歩堂が自身に欲を抱いているという事実が、御剣の身体にじわじわと疼くような熱を与える。 暖房がようやく効き始めた室内で服を脱がせあう。 成歩堂は目をいる白い肌をぎゅっと抱き締める。掌を這わせ、御剣の全身に触れようとする。 滑らかな肌に触れて、次第にその体温が上昇していくのを全身で感じる幸せ。己の手の中で、御剣が吐息をつき、身体を震わせる。成歩堂自身に何の刺激が加えられていないのに、その様子を見るだけで、更に欲望は硬くなり、身体の芯も熱くなる。 決して不器用ではない成歩堂だが、御剣に触れるときは恐る恐る、壊れものでも扱うようにしてしまうので、少しばかりぎこちない。御剣はそのぎこちなさと優しさがないまぜになった掌の動きが好きだった。直線的に肉体の熱を追い上げるのではなく、ちゃんと心の熱と同じ速度で身体も熱くなっていくことが出来るから。 成歩堂を好きだから、身体を重ねたいという欲求を抱くのだと実感出来るから。 唇を重ねて、柔らかな舌を擦り合わせる。 相手の想いを吸い込むような深いキス。 目には見えない奥まで探りあうように、舌を絡ませて、触れ合わせて、先端でつつきあって。 零れ落ちる唾液の露が喉を転がり落ちる感触に時折反射的に首をすくめながらも、何度も角度を変えて貪りあう。 暫くすると御剣が顔を背けた。 成歩堂も無理に追わずに、唇でなく、首筋に口づけを落とす。 御剣の白い指が成歩堂の唇に触れ、離れた。 成歩堂の唇に触れた指を御剣は己の口に運ぶ。 その仕草を見る成歩堂のものは更にいきりたつ。 成歩堂は御剣の手を取り、軽く甲に口づける。 御剣をすぐにでも押し倒し、張り詰めた己で秘所を貫きたいという欲を必死で抑え、白い指先を丹念に舐める。整った爪先から唾液が滴るほどに濡らす。 本当は御剣の秘所にもじっくりと触れてみたい。少しばかり触れるくらいなら御剣は止めない。 だが、行為の前に解すという段階では何度か触れようとしたのだが、やんわりと拒絶されてしまう。 己の指で固く閉ざされた秘花を解して、蜜を滴らせてみたいと思うのだが、その機会はまだお預けのようだ。 今回も御剣は腿を探る成歩堂の手を退け、自分の指を己の秘所にあてた。 成歩堂もまた、強引に行為を続行するだけの勇気はなかった。 御剣に嫌われることも怖いがそれより、彼を傷つけてしまうことが怖かった。 本来の目的外に使用される場所は柔らかで、下手に扱うとすぐに怪我を負わせてしまいそう。 成歩堂自身の欲を包み込めることが不思議だった。 それでも、最近は羞恥に染まりながらも、その秘所を解すという行為を見せてはくれるようになった。そのかわり、成歩堂も、自身の欲が成長しているところを隠さないという条件はついている。 真向かいに半ば胡坐をかくように座って、御剣がそろそろと脚を開き、指を秘所にあてる行為をじっと眺める。端正な白い顔が赤く染まっている。 でも成歩堂はそれを揶揄えない。自分の顔も同じくらい赤くなっているだろうことを知っている。 彼の姿態に鼓動が高鳴って、彼の行為に反応してしまって。 御剣は小さな入り口に濡れた指を押し当てる。 ゆっくりと挿入し、息を吐く。 この感覚が苦手だという想いと、行為を知ってしまった故に奥から湧き上がる快感への漣の挟間で思考が上手に結べない。 己の手で解すときでさえも、浅ましい感覚に流されそうなのに、成歩堂に触れられてしまったらきっと声を上げずにはいられない。 己一人が我を忘れて悶えることは嫌だった。 それに比べれば、成歩堂に見られている前で、己の秘所を解す行為をするほうが余程ましだ。 その行為を見ているだけで成歩堂のものも更に兆していることを確認できるから安心する。 彼が自分の身体を欲しいと思っていることを実感出来て安心できる。 普通なら使わない筈の部位を指などで弄られて快感に泣くような自分は嫌だった。 男を受け入れ、互いに感じあうことは耐えられる。相手も自分も同じ生き物だと思えるから。 欲望を必死で抑えて、自分の準備が整うのを待つ成歩堂を可愛く思える。 お預けしている気持ちはないのだが、欲求を抱いてすぐに抱き合えるわけではない。 同じ性として辛いだろうとわかる。 それでもその前儀を全くなくしてしまうことは不可能だから。 自分も早く成歩堂を感じたいという欲求を抑え、丁寧にことをすすめる。 無理をすると後程自分も辛いし、何より成歩堂のへこみっぷりが目に浮かぶのでゆっくりと指を増やす。水音が増し、指の動きもスムーズになったところでそっと指を引き抜いた。 濡れた秘所に触れる外気が冷たいと感じた。 「成歩堂」 成歩堂の身体を引き寄せる。 「もう大丈夫?」 心配そうに聞く成歩堂の猛りが腿にあたる。 御剣は脚をひろげ、成歩堂の下半身を受け入れた。 熱い固い肉が濡れた秘所に触れる。 「御剣、いい?」 頷くと同時に貫かれる。 熱く狭い隧道を突き進む音。 濡れた音。 御剣はしっかりと成歩堂の背にしがみついた。 繋がった部分が互いに快感を引き起こす。 成歩堂の動きにあわせて、彼の視界に入る御剣の髪が枕の上で揺れる。 甘い声に勢いを得て、更に奥へと貫き、引き、腰をうちつける。 御剣の狭い熱い壁は絞りとるように成歩堂を強く包みこむ。 腰を中心に甘い痺れ。 脳髄にかけあがる熱い疼き。 いっきに天までかけあがるような閃光の瞬間。 荒い呼吸の中で抱き締めあう。 「新年早々・・・だね」 成歩堂は笑う。 「姫はじめってやつかな」 御剣の髪を弄り、上から覗き込む。 途端に締め上げられた。 御剣がその言葉に反応したせいか、成歩堂が動いた為に感じてしまったせいかはわからない。 それでも、締め上げられた分身はまた反応してしまって。 御剣が己の中に埋められた成歩堂の変化に笑う。 「元気だな」 「まあ・・・新年ですし。頑張らないとなぁと思って」 成歩堂は嘯いて、御剣の身体を抱き締めなおす。 「時間は充分ある」 御剣はゆっくりと瞼を閉じた。 それを合図にもう一度、快楽を追う行為に取り掛かった。 夜明けが来る頃にようやく二人は抱きあって眠りにつくことになる。 今年はなるほどくんは風邪をひいてるようですが、まぁ書いてみたいネタでしたので。 |