おねだり 「みつるぎ〜」 「は・な・せ・・・っ。出勤の邪魔をする気か!」 背後から抱き締めて、足を絡ませて、成歩堂は御剣から離れない。 ぴったりと肌を寄せて、身体一面でくっつく。 「キミは事務所にいればいいだろうが、私はそういうわけにはいかないのだ。わかっている上でやっているのか?」 「御剣ぃ、お願いだよぅ」 「くどい!」 「見たいんだよ。ね、いいだろう」 「何がいいだろう、だ。離せ。公務執行妨害だぞ」 「まだ公務中じゃないもん」 「これから公務に行くところを知っていて、妨害するなら、話は変わるぞ」 「どうでもいいよ。とにかく!ぼくは御剣がエプロン着て、背中流してくれるって約束をしてくれない限り、離れないよ」 「そんな約束出来るか!」 「だって、調べたら着てくれるって言った」 そこで、成歩堂は後ろから、御剣の耳を噛む。息を吹きかけるように、会話を続ける。 「御剣には似合うと思う。見せてよ」 御剣は不本意ながら、成歩堂の腹部に肘で一発決めた。息をのむ成歩堂、力が緩む。 自業自得といえ恋人からの冷たい仕打ちに、ベッドの上で布団をかぶって丸くなっていじけている成歩堂をそのままに、御剣は家を出た。 風呂に入る為に服を着る理由が御剣には理解できなかった。身体を洗うのに、服を着ては意味がないと思う。それがあまり一般的な行為ではないことは理解していなかった。ネット検索の罠。男の浪漫が凝縮された作品ばかりが検索件数にひっかかっており、現実のものではないと彼は未だ気づいていない。 例えば、料理の時にエプロンをつけるのは、ひじょうに理にかなっている。御剣にとっては『お風呂?ご飯?それともわたし?』という言葉は『新しい誘い文句』として有効だと思われた。 マンネリでは面白くない− そこで御剣は思った。 −マンネリ化をふせぐための余興? エプロンで恋人の背中を流してあげることの効能について、考察を再開した。 |