ケーキ 真っ赤な苺。 ルビーのような深い赤のゼリー。 赤いゼリーの海にもスライスした赤い苺が嵌めこまれている。 赤い外と、輪切りにされて、ようやく人目に触れるようになった中は白。 ルビーの海に浸っているから、そこは『白』だと予想するしかないけれど。 白いことはもうずっと前から知っている。 しっとりとした白いスポンジに滑らかな白いクリーム。 口にいれたら蕩けるようで、その上甘くて。 一口でも口にしたら、最後まで食べつくしてしまう。 味を知ってしまったら、その欲望を止めることなんて出来ない。 味を知らなくても、その芸術品のような外見だけで、こんなにも食指を動かされる。 誘惑の赤と白。 透明に金の線の入ったフィルムをそっと剥がす。 この上なく丁寧に。 「ショートケーキ食べるのってなんだか、ドキドキするね」 成歩堂は少し興奮気味に呟く。 対して、御剣は、何のことだかさっぱりわからず、首を僅かに傾けて見せた。 「服を脱がせてるみたい」 綺麗に剥がれたフィルムをひらひらと振ってみせる。 「どのケーキでも同じだろう」 御剣は優雅な仕草で銀のナイフを持ち上げる。 「ショートケーキは別だよ」 成歩堂は真顔で断言する。 「だって・・・」 「だって?」 「秘密」 成歩堂は笑ってみせた。 「ナイフ、貸して。ぼくが切るよ」 御剣は怪訝な表情を浮かべつつも、ナイフを手渡した。 成歩堂は銀の先端を白い柔らかな表面にあてる。 ナイフの切っ先がそっと白いクリームに吸い込まれていく。 手ごたえを感じる。しっとりとしたスポンジも、はさまれた甘いクリームも抜けて、底までたどり着いた。 「ほら、綺麗にきれた」 手際よく、皿に取り分けた。 「成歩堂」 「なに?」 「・・・どうしてショートケーキは別なんだ?」 御剣は真剣に考えているようで、眉間に皺がはいっている。 「知りたい?」 重々しく頷く。 「じゃぁ、今夜教えてあげるよ」 成歩堂は自分の皿のショートケーキをフォークで優しくすくって、口に運んだ。 御剣も、とりあえずその返事に満足して、フォークを手にとった。 |