公園 「遅い」 待ち合わせの時刻、一分前。 御剣はぽつりと呟く。 成歩堂の姿は見当たらない。 一分前なら、見渡せるくらいの場所にいなければ、遅刻は確定。 噴水の壁に半ば、背をもたれて、御剣はもう一度見渡した。 「遅い」 時計の針は時刻丁度。 御剣は背筋を伸ばす。 腕を組み、眉ねを寄せる。 「何をやっているのだ」 まさか、今日の法廷に手間取っているのではないだろうか。 御剣は自分が担当にならなくてよかった、と心の中で思った事件。捜査の穴がありすぎて、成歩堂でなくても突っ込みどころは満載だろう。 そこで、また、御剣は渋い表情になった。 成歩堂が弁護する日の公開裁判には、何故か行列が出来る。あの男の人気をあらわしているようだ。本来なら喜ばしいことなのだろうが、今日も出来た行列に、御剣は何故か不機嫌になる自分に少し困惑した。 裁判に手間取ると考えられない、ということは、取り巻きに囲まれて、遅れているのかも知れない。 御剣の不機嫌度が上昇した。 「どうして私が苛苛しなければならないのだ。成歩堂が遅れるからだ」 御剣は全速力で歩き始めた。 走っているわけではないが、凄いスピードで。 公園の端まで歩くと、向きを変え、また目的もなく歩き始める。 狭くない公園内を何周しただろうか。 「み・・・みつるぎ・・・捕まえた・・・」 肩に重みを感じ、良く知った声に御剣は立ち止まる。 「む。・・・遅かったな」 「ご、ごめん・・・」 全速力で走ってきたのか、成歩堂は膝に手をあて、かがんで呼吸を整えている。 「どれだけ待たせたと思っている?」 「違うよ・・・」 とりあえず、言い訳を聞こうと、御剣は両腕を組んだまま、成歩堂の呼吸が整うのを待つ。 「遅れたのは、二分くらいだよ。御剣がすごいはやさで動くもんだから、捕まんなくて。声かけても、聞こえないみたいだし」 「遅れたことは認めるのだな」 「怒ってる?」 「いや・・・怒っていたが・・・」 疲れ果ててる成歩堂を見ると、怒りも消えてしまった。 「じゃぁ、行こう」 成歩堂は手を差し伸べ、 「ちょっと待って」 引っ込めて、手をハンカチで拭いて、もう一度差し出した。 御剣の手を掴む。 「御剣、全然、汗かいてないね」 成歩堂は御剣に寄り添って、息を吸い込む。 「鍛え方が違うからだ」 呼吸ひとつ、かえずに御剣がかえす。 「いつもの御剣の匂い」 香水と、御剣自身の香りの混じった、成歩堂の一番好きな匂い。 先程まで、二人の追いかけっこをはらはらしながら見ていた公園内の人々は、いちゃいちゃしはじめた二人に、ほっとしつつも、あまりのいちゃいちゃふりに恥ずかしくなって目をそらす者も出る程だった。 二人は周囲の目に全く気づかぬまま、仲良く手を繋いで、公園をあとにした。 |