キーボード 「何だ?これは」 見つかった、と成歩堂は顔を僅かにしかめた。 「君は…弁護士から歌手デビューでもする気か?」 「違うよ…」 大きさとしては見つからないほうがおかしい。ベッドの下に隠していたのに、めざとい御剣は見つけてしまった。クリスマスや誕生日などの何らかのイベント近くなら、暫くは見てみぬ振りをしてくれたかも知れないが・・・ 余計は疑惑は早めに打ち消すのが一番。 疑心暗鬼な時間が長い程、本当のことを言っても信用されなくなる。 成歩堂はカバーをかけておいたずるずるとそのキーボードをひきずりだす。 「ちょっと早いんだけどなぁ」 成歩堂は電源を入れ、御剣の様子を伺う。 成歩堂の指が鍵盤を走る。 囁くように歌を重ねる。 御剣は何処か真剣な表情で成歩堂の指を見つめる。 メロディが終わる。 「この前、恋人に曲を演奏して、プロポーズするってのをテレビで見てね。すごくいいなぁと思ったんだ。…御剣の為に、って弾いたらどんな顔するのかなって」 「私のために?」 「そうだよ。だから、もう一回ちゃんと聞いててね」 成歩堂はさっきより緊張した顔で鍵盤に向う。 御剣もさっきより真面目な顔で成歩堂の顔を見つめる。 そのメロディも、歌詞も、自分に向けられたものだ、と思って聞くと、頬が少し熱を帯びる。 成歩堂の囁く声をもっと近くで聞きたい気分になる。 演奏のおわった成歩堂の指に、御剣は指を絡めた。 手をとって、成歩堂に向けて身を乗り出し、唇を重ねる。 「私も、君の為に何か弾きたい」 成歩堂に対して、それだけの思いがあると伝えたい。彼に弾けて自分に弾けない、と思われたくないという負けず嫌いな一面も少々あったが。 「ありがとう。今度、楽しみにしてる」 「いや…今、弾く」 少し驚いた表情の成歩堂に、得意気な顔をしてみせた。 御剣が白い指を白い鍵盤の上に乗せる。 一呼吸− ジャジャジャジャーン 良く知った曲の出だし。激しいフレーズ。 タイトル−日本名では『運命』 御剣の指が鍵盤を叩く、文字通り、叩く… 途中で指が止まった。 「む・・・鍵盤が足りない」 「み、御剣…気持ちだけでとても嬉しいよ…」 『運命』という言葉は嬉しいが、あまりの勢いに成歩堂はびびってしまった。 「では…今度、君の為だけに弾いてやろう」 御剣はそう言って、成歩堂の唇に、今度は『約束』のキスをした。 |