料理の必須品 「ただいまぁ〜。御剣〜」 今日は御剣が夕飯を作ってくれる、とメールにあった。 久方ぶりの検事の手料理に成歩堂は浮かれている。 「おかえり」 生真面目な顔で玉葱をみじん切りにしている検事がいた。 「う・・・に、似合わない・・・」 思わず呟いてしまう。 いや、エプロンをすることはいい。 普通の無地の紺のエプロン。何と御剣に似合わないことか・・・ そのことに思わず絶句する成歩堂だった。 玉葱対策のゴーグルなど、どうでもいいレベルだ。 普通のエプロンがこんなに似合わないなんて、ある種の衝撃というかカタルシスというか・・・ 「何だ、君は?!帰ってくるなり、喧嘩でも売っているのか!」 案の定、御剣は大激怒。この場合、間違いなく、自分が悪いとわかっている。似合わない、なんて誰でも怒るに違いない。 「ごめんなさい・・・そんなんじゃなくて・・・あの・・・」 「エプロンが似合わないことくらい、わかっている!」 腹立たしげにエプロンを外して成歩堂にたたきつけた。 「でも、貴様が服が汚れるからと言っていたし・・・それにっ」 御剣は更に顔を赤くした。 「すみません。・・・それに、何?」 「その・・・エプロンをして・・・出迎えて見たかったのだ!悪いか!」 自棄のように言い捨てると、凄いスピードで玉葱を刻み始めた。あっというまにミンチ状態になる玉葱。 「ううん。嬉しい。エプロンが似合わないんじゃなくて・・・その・・・そのエプロンが御剣に似合わないんだよ・・・わかるかなぁ」 どもりながら、成歩堂は言葉を探す。 これが法廷なら、威厳のない弁護士であること間違いない。 『異議あり』という言葉で戦えるほうが楽だな、と思いつつ、焦って言葉を探す。ここでまさか、『異議あり』など、言えるものではない。 「御剣がぼくの服を着ても似合わないだろう?そんな感じ。別のエプロンなら似合うんじゃないかなぁと思うんだよ。うん。ボク、買ってくるよ」 半ば自分にも言い聞かせるようにしながら、成歩堂は御剣の反応を伺う。 「・・・今日もカレーだがいいか?」 どうやら、納得したようで、成歩堂はほっとした。 「うん。勿論。御剣のカレー楽しみだ」 御剣の後姿を見つめながら、成歩堂は『どんなエプロンを買おうかなぁ』と考えていた。 勿論、最終的には邪な考えも浮かんでしまって、股間をおさえてトイレに走ってしまったのだが・・・ 「狭い家の中を走る必要があるのだろうか」 走っていく足音を聞きながら、御剣は少し呆れた。 自分がどんな妄想のネタに使われていたかを知ると、もっと呆れるかも知れない− 「成歩堂!出来たぞ」 「すぐ行くよ!」 本日のカレーの出来にも、天才検事は大満足だった。 |