誤認逮捕 天才検事の機嫌は最悪、というより、極悪に近かった。 尤も、成歩堂はその件にすぐに気づいたにも関わらず、そんな状態の彼に手を出してしまうという過ちをおかすという大層危険な難事業に着手した。 ただ、怒っている彼の鋭い視線、僅かに紅潮した頬、時折、かみ締められる唇なんかをじっと見ていたら、堪らない気持ちになったのだ。 −御剣怜侍という存在が悪い 成歩堂の中に潜む、大抵の男の中に潜む、欲求を目覚めさせてしまうのだ。 触れたくて堪らない、構いたくて堪らない、その頭の中を自分という存在だけにしてやりたい。 「何をする」 突然、抱き締められた御剣は超不機嫌な声で、成歩堂の行動を咎めた。 「痛」 磨かれた靴が不埒な男の足を踏みつける。 堪えきれず、思わず、成歩堂は痛みを訴えたが、御剣は更ににじった。 「はなせ」 「嫌」 更にきつく抱き締めて、首筋をぺろりと舌で舐めあげた。 あ、と御剣が声を上げ、すぐに唇をかみ締めた。 俯き加減の顔。長い前髪の間からのぞく耳はほんのりと赤く。 「そそられるよなぁ」 勝手なことを言い、成歩堂はその耳朶にも舌を這わせた。 本気で抵抗をはじめた御剣を壁際に追い詰めて、逃れられないように体重をかけるようにして押さえ込む。 「成歩堂!」 抗議だけ上げる、唇を己の唇で塞いだ。 自分の名前はもっと甘い響きで呼んで貰いたい。 呼気を求めて、僅かに開かれた隙に舌を侵入させた。 噛み付かれそうだ、と思い、成歩堂は御剣の顎を手で掴んだ。 無理に開けられ、成歩堂の舌が深く入り込み、中を侵す。 口の端から零れ落ちた唾液が御剣の喉を滑り落ちる。 その敏感な首部分の皮膚への粘液の感触に、御剣の身体が震えた。 「ん・・・」 濡れる唇で吐く息はどんな蜜の誘惑よりも甘く、痺れるような感覚を引き起こす。 成歩堂は下半身を御剣に押し付ける。既にいきりたつ成歩堂を大腿部にあてられる。 「何をする!」 キツイ言葉も、潤んだ瞳と上がった呼吸では成歩堂を煽る手段としかならない。 「決まってるだろう?きみだって、もうこんなになってるじゃない」 成歩堂は御剣の腿の間に手を入れた。膨らみかけたそこを上からそっと握る。 「嫌だって言ったって信憑性がないよ」 くすくすと笑って、成歩堂は行為を続ける。 ベルトを外し、スラックスを下着ごとおろした。 御剣はようやく観念したのか、大人しくなった。 「汚れるのは嫌だ」 「じゃぁ、きちんと脱いだほうがいいね」 成歩堂はにっこりと笑って、靴と靴下はそのままで御剣のスラックスを脱がせてしまった。 「誰か入ってきたらどうするんだ」 「ちゃぁんと鍵をかけてるよ。御剣のそんな姿を誰かに見せるなんて勿体ないことするわけないだろう」 御剣は安堵と諦めの入り混じった溜息をついて、成歩堂の求めるままに身体を開いた。 煽られて、処理せねばどうしようもないというレベルまで来ていた。 壁際に追い詰められ、片足を持ち上げられる。 空気の冷たさを感じたのも一瞬で、濡れた剛直が、ひくつく粘膜を貫いた。 「あ…」 先程まで見ていた資料が成歩堂の肩越しに目に入り、御剣は目を閉じた。 毎日、仕事をする部屋で、非定常な日常ごとをしている自分達がやけに卑猥に感じた。 それに気づいて、更に奥に熱が湧く。 ひとの運命を決めてしまうかも知れない場所で。 正義をしらしめる為の場所で。 ある意味で世間から隔離された超越の空間の一部。 そんな場所で− やけに人間的な行為に没頭する自分を哂った。 己を揺さぶる男の背にしがみついて、肩に噛み付いて、声を堪える。 成歩堂の絶頂を御剣が受けとめる。 御剣の絶頂を成歩堂の掌が受け止める。 成歩堂も息が荒い。 ゆっくりと結合が解かれる。 出て行く肉の感触、収縮する内壁、腿を伝う欲の液体。 「汚れちゃったね」 御剣の白い肌にはりつく液体を、成歩堂は指ですくった。 「きみの所為だ」 「そうだね」 あっさりと犯行を認め、謝った。 「だから、ぼくが綺麗にしてあげるよ」 殊更、丁寧にティッシュで腿を拭う。 御剣が思わず、声を上げてしまうくらい、優しく、そっと。 「ねぇ、気分紛れた?」 「・・・きみは何を考えているんだ」 御剣は泣きそうな顔で笑った。 「人間は間違うものだよ。間違いを初期の段階で正してあげればいいじゃない」 そこまでは当然、真っ当な意見。 「それに、そんなこと、どうでもいいじゃないか。昨日まで知らなかった誰かのことより、昨日までも、今日も、明日からも、きみを好きなぼくのこと、考えたほうが建設的だろ?」 気持ちを仕事に摺り寄せたり、他人の人生を背負ってしまったら、辛いだけだろう。 「仕事は仕事。それ以外の時間は考えない」 ね、と諭すように笑顔を浮かべる成歩堂。 「成歩堂」 御剣は身支度を整え、いつもの冷静な表情を取り戻していた。 両腕を組んで、口元には微笑。 「…今は勤務中なのだが?その際にこういう行為を挑むのは間違っているだろう?その論理でいくと、仕事の時間は仕事のことを考えねばならん」 「今のは休憩時間」 成歩堂は真面目な顔で言い切った。 御剣は大仰に両手を広げて、溜息をついてみせた。 それから、少しだけ笑った。 |