トノサマン トノサマン好きが高じた挙句、個人で本まで作っちゃうという素敵な人々の存在を知った某検事は早速何処でそのような方々と仲良くなれるのかを調べてみた。 さぞかしコアな会話が出来るに違いない、と最も人が集まる、一番近いイベントに足を運んでみることにした。 −こっそりと。 こっそりと行動したつもりなのに、その後ろをつける人影。 最近、心ここにあらず、といった感の恋人に危機感を抱いた、成歩堂だった。 マフラーをぐるぐると巻いて、マスクをして、変装しているつもりだろうが、髪型は変わらない。 「御剣・・・楽しそう(涙)」 いつものようにひらひらしたスーツ、というより夜会服?にこれまた重厚なコートを羽織って、颯爽と歩いていく。 対して、成歩堂はこそこそ、と物陰に隠れつつ、ついていった。 前を歩いている検事も、尾行に気づかないほうがおかしい、というくらい、アヤシイ挙動で。 御剣のほうは、やましい気持ちは一切ない上に、好奇心が先行して、背後には全く注意を払っていなかった。 次第に尋常でなく、行きかう人の量が増えていく。 それでも幸か不幸か、とりたてて目立つ恋人の姿を見失うことなく、会場まで辿りつくことが出来た。 だが、さすがに中は一味違った。 パーティ衣装の検事なんて目じゃない程に、派手な衣装の人々がいた。 思わず、目を奪われているうちに、見失ってしまう。 行くべき場所がわかって進む御剣と、何処に、向っているのかわからずに追う成歩堂では、追いかけることも出来ない。 仕方なく、行き当たりばったりで、うろついてみることにした。 とりあえず凶器になりそうな分厚い案内を買ってみた。 ぱらぱらとめくっていると、硬い言葉が目に付いた。 検事、弁護士・・・ そんなものが好きな人たちもいるんだなぁ、と己の職業柄ちょっと心ひかれて、成歩堂はそのエリアにじっくりと目を通す。 「……?」 何処かで見たことあるような・・・ バタンッ 焦って分厚い雑誌を閉じ、成歩堂は左右を見渡す。 そっと、もう一度めくってみる。 「あぁぁあぁ」 これは、もしかして、もしかしなくても・・・ 成歩堂の背中に何かが滴り落ちる感じ。 顔が赤くなる。 確かに、自分も彼も、少しは名前が知られているけれど− 「は、恥ずかしいな…」 何処か、他人事、けれども、自惚れではなく、それは自分事。 「うん…。今日のぼくならばれないよね?」 独り言を呟きながら、そのエリア近くまで行ってみた。 これは変装していても浮き具合は変わらないかも、というくらい女性でいっぱい。 通路を歩くだけでもスリルだ。寿命が縮みそう。 でも、自分がどんな風に思われているのか興味があった。 しかし、そこにあったのは、例えばよくある政治風刺とかファンクラブとかそういうものではなく− それに近いけれど・・・ ハリネズミ弁護士とかハッタリ弁護士とかで揶揄されてるくらいか、反対に突っ込まれているくらいかとたかをくくっていた成歩堂の体温が上がる。 「・・・・・・・・(絶句)」 それでも、成歩堂はつい、展示されてる絵などに興味をひかれてふらふらと迷い込んでしまう。 桃源郷のような迷路から出てきたときは、何故か両手に荷物が増えていた。 成歩堂は御剣を探していた時とは反対に、彼に出会わないように、と願いながら、会場を後にした。 翌日から、彼は寝不足と戦うことになる− 夜な夜なネットサーフィンに熱中、帽子を被って、郵便局に向う成歩堂の姿が見かけられるようになるのはそう先のことではなかった。 |