Sakura 「花見というからには・・・桜の下で弁当を食べるものだと思っていた」 「んー。でも、こうやって喧騒から逃れて食べるのもオツでしょう?」 ホテル特製の弁当を窓辺に置いて、御剣は何を考え込むのか、眉を寄せる。 その表情は、不機嫌というより、寧ろ、いつも通り。 花見弁当、しかも『お花見プラン』と題していうからには花を見ながら食べるもの、と日本人なら誰しもが検討つけるところだろう。 成歩堂に『お花見の季節だよね。美味しそうな特製弁当見つけたから行こうよ』と言われたのは一週間前。 多忙の最中、渋々時間を作ったふりをして−その振りさえも見透かされているのかも知れないけども−特製弁当より寧ろ、桜を見ることを楽しみにしていたのだが・・・ 「何となく、味気ないな」 「え〜。特等席でしょ。上から見れるのってそうないよ?」 見上げる桜ではなく、眼下の公園を彩る桜を見下ろすホテルの一室。 確かに『花見』には間違いないが。 薫る風、舞い落ちる花弁、そういった風情はない。 「だって、ここなら二人きりになれるし」 「・・・」 特製弁当+ホテル一室を20時まで貸切のプラン。 そんな奇妙なプランは聞いたこともなかったから、御剣の思考は全くそっち方面に向っていなかった。 意味深な成歩堂の視線の先、御剣は背後を振り返る。 そこにあるのは膝くらいの高さに敷かれた二組の布団。ベッドではない。 床にあたる位置より高い場所にロフトのような布団を敷く場所があるのだ。 建物は三角形だし、部屋の入り口からして、そんなに広い部屋でもないのに通路が捻じ曲がっているし、何とも奇妙な部屋の作りだったので、最早そんな位置に布団があるオカシサをスルーしてしまっていた。 成歩堂の顔をもう一度見て、ふ、と御剣は溜息を零した。 それはけして、嫌味ではない。 「そういうことか」 成歩堂は激しく左右に首をふる。 「うう。ここなら誰にも邪魔されないって、純粋な意味!」 「そうか。ならいい」 御剣は両手を合わせ、割り箸を上下に割った。 「待った!」 機嫌を損ねてしまったかな、と成歩堂は慌てた。その気にならない御剣に無理矢理というのはちょっと無理な相談だ。 「ね、そういう意味もある・・・。駄目かな?」 「この料理が美味しければ考えよう」 ・・・以下続行 |