Library 知識の倉庫。 一生かけても見尽くすことの出来ないもの。 あらゆる国、という横だけでなく、人類の歴史という縦をも繋ぐもの。 数え切れない本とそれに込められた想念が詰まった図書館。 本を開けば、本自身が見ている夢を覗くことが出来る。 または、それは本のものではなく、本を綴ったひとの思いか、過去に読んだひとびとの思いか。 歴史の香りが漂ってきそうな本を開く、白い指。 最初のページをそっと。 息をしていないのではないか、と思うくらいに静かに、密やかに、ページがめくられていく。 瞬きだけが、彼がちゃんと生きていると思える証。 成歩堂は肘をついて、向いの彼を眺める。 そんな成歩堂の手元の本は最初の数ページで止まっている。 息をひそめて、見つめていたのだが、いつしか、見惚れていた。 図書館の古さを感じさせる歪んだガラス越しに差し込む僅かな光。 その光が丁度、御剣の頭上に射して、艶やかな髪が輝く。 一心に文字を追う、伏せられた眼差し、整った鼻梁。 軽く結ばれた柔らかそうな唇。 成歩堂は溜息をついた。 御剣が顔を上げた。 「なんだ。全然進んでいないじゃないか」 成歩堂が溜息を再度つく。 「だって・・・集中できなくて」 「この静かな図書館でどうして集中できないのだ?きみは子供か」 「・・・御剣に見惚れてただけ」 そういうと、面白いくらいに御剣の目が見開かれ、そして、顔が僅かに赤くなった。 「き、きみはなんて恥ずかしいことを言うのだ」 睦言ではそれ以上に恥ずかしいことも言っているのに、公共の場で囁かれる愛の言葉に、検事は動揺する。 「だから、隣に座ってもいい?」 成歩堂はにっこりと笑って、席を立つ。 御剣は何も言わずに、本に目を落とした。 成歩堂は隣に座ったものの、やはりほんの数分で本を読むことを投げ出した。 「ぼくは別に読書が嫌いなわけじゃない」 成歩堂はぱたんと本を閉じ、宣言した。 「今は、きみを見たいだけ。この本は明日も、明後日も同じだろうけど。今の君は今しか見れないじゃない?」 御剣は眉をひそめ、呆れて、そして、苦笑した。 二人は本を手に、席を立った。 本はそれぞれの自宅に持ち帰られることになる。 その後の本来なら読書をする筈だった時間は、成歩堂の願い通りになった。 |