コーヒーカップ あと少し− 本当にあともう少しで仕事が終わる。 今日のうちにぎりぎり片付けてしまえる量。 なのに、何だか頭が働かない。 寝不足なのかな。 頭をスッキリさせる為に珈琲を淹れる。 お手軽なインスタントに湯を注ぐ。 「御剣は」 話かけようとして、彼のほうを見やると、ベッドに寄り添うようにして転寝している。 風邪ひいちゃうよ、と小さく呟いて、ぼくは湯気のたつカップはそのままに、御剣の傍による。 毛布を肩からかけてあげた。 集中出来ない理由のひとつ− そんなこと言ったら御剣は怒ってしまうだろうから、言わないけれども。 誰だって、好きなひとが傍にいれば、他のことなんてどうでもよくなっちゃうでしょ? ・・・まぁ、確かにそんなこと言ってたらぼくたちの職業柄やっていけないけど! 審理で御剣とあたる度に彼に見惚れて仕事にならないってことになってしまう。 そこまでひどくはないけど、『ぼくの家』で、『恋人のきみ』と、『二人きり』、ってなると他には何も考えられないのが普通だと思う。 「さっさと終わらせて、御剣と遊ぼう」 ぼくは御剣が聞いたらやっぱり怒りそうな独り言を呟いて、カップを手に取る。 それでも、真っ黒で熱い液体をそのまま飲む気がしなくて、冷蔵庫から牛乳を取り出した。 ミルクティ色になるまで、たっぷり注いで。 一口飲んで、今度はグラニュー糖のスティックを手に取った。 一袋、二袋、さらさらと零れ落ちる音。 入れすぎた、と思ったけれど、まぁいいか、とそれを手に御剣の横に座った。 甘い、液体を舐める。 溶解仕切れなかったグラニュー糖が舌の上に残る。 甘い。 「御剣」 気持ちよさそうに眠る御剣の唇を唇でふさいだ。 ん、と吐息を漏らして、御剣の睫が動く。 ゆっくりと瞼が開く。 うっすらと開かれた口内に舌を忍ばせ、擦り合わせた。 柔らかな舌、ざらついたグラニュー糖の感触。 それが溶けてしまうまで、舌を絡み合わせた。 「・・・な、るほどう」 唇を離すと、御剣は少し惚けた表情でぼくを見た。 「甘かった?」 御剣の視線がゆっくりと動いて、ぼくの手元にとまった。 「糖分の取りすぎではないか?」 御剣はそれだけ言うと、まだ夢現なのか、柔らかく微笑んで目を閉じた。 「寝ちゃうの?そこで」 呟くように『まだ仕事が終わってないだろう』と御剣が言った。 途中で寝息にかわってしまって、語尾はよく聞こえなかったけれど。 「・・・さっさと終わらせよう」 ぼくはもう一度、かたく決心する。 「そんな風に眠らせてあげないから」 御剣で、遊ぼうと心に決めて、ぼくは作業に取り掛かる。 一旦かくたる目標が出来たら、はっきりいってむかうところに敵はない。 「御剣、終わったよ」 お待たせ、と毛布をはぎとった。 それから二時間ばかり御剣と楽しんで、気持ちよく眠りについた。 目覚めたら、御剣に御揃いのコーヒーカップに甘い珈琲を淹れて、キスで起こしてあげよう、と思った。 |