love forever? 「貴様など絶対に信じないッ」 唐突に恋人に手を振り払われて、ぼくは呆然とした。 一体何が彼を怒らせた? それまではぼくの腕の中におとなしくおさまっていたのに。 有体に言うとパジャマのボタンをはずすとこまでいっていたのに。 盛り上がっていた気持ちがすぅっとひいた。 というか、御剣を怒らせた、ということにぼくはうろたえる。 確かに御剣は気なんて長くないし、普通の状態なら怒られてもあんまりぼくも気にしないんだけど。 こういう恋人同士の時間に彼を怒らせる、というのは『破局』にも繋がりかねない。 親友兼恋人(兼幼馴染?)な関係っていろいろと使い分けが微妙なんだよ。 「触るな」 キッパリと宣言されて、御剣はぼくに背中を向けた。 「ね、御剣」 ベッドから出ていかないってことはまだ心底キレてるわけじゃない。 訂正、さえすれば、何か彼を怒らせたことを謝りさえすれば、御機嫌はなおりそう。 「御剣、好き」 背後からそっと手を回して、耳元で囁いた。 昂ぶりはじめていた身体はふるっと震えたが、今度は御剣は手を払わなかった。 身体を密着させて、襟首に唇をおしあてる。 白い肌がみるみる染まっていく。 「御剣、愛してる」 耳朶から首筋をぺろっと舐めると、御剣が声を抑えた。 熱い呼吸だけが聞こえた。 「ッ・・・」 「御剣、怒らないで」 パジャマの上衣の中に手を突っ込み、肌に触れる。 「好き・・・愛してる、ずっと・・・痛ッ」 手の甲をがりっと引っかかれた。 「信じないと言っているだろうッ」 「えっと・・・」 御剣の悲鳴のような押し殺した叫び。 手の痛みより、その響きがぼくに突き刺さる。 御剣が『信じない』のは何? ぼくがきみを好きだってこと? いや、違う。なら、もっと早い段階で怒る筈。 『ずっと好き』ってこと? ……御剣が怒ったのは 『きみだけを永遠に愛すよ』 あぁ、もしかしたら、これか。 「御剣」 ぎゅっと身体を抱きしめる。 「・・・ぼくは十五年、きみを追ってきた」 震えてるのは、ひょっとしたら泣いてる? それを指摘したら彼は怒るか、更に泣いてしまうか。 どちらも嫌だったから、指摘はしない。 「信じてくれないのかな。ぼくはずっときみが好き。これからも」 「ずっと、とは何時までだ」 「だから、永遠に」 「それが信じられない。・・・十五年を何倍しても永遠には届かない」 「うん・・・そうだね・・・それでも、永遠を見るぼくが」 ぼくの歪んだ論理。 きみの歪んだ論理。 平行線をたどりそうな想いだけれども、根底にある必要条件は同じ。 −きみを愛しているぼく −そして、ぼくを愛してくれるきみ 「・・・ねぇ、何年だったら信じてくれる?」 少しだけ明るい声にして、−そう、喧嘩なんてしてなくて、今が最中の睦言みたいに−問いかけた。 「・・・百年」 御剣からの返答はぼくを十分びっくりさせた。 永遠も百年も同じようなものじゃないか。 ・・・いや、違うか。 百年後は、まだぼくたちはぼくたちとして、存在している可能性がある。 弁護士のぼくと、検事のきみ。勿論、引退してるだろうけど。 成歩堂龍一と、御剣怜侍であることは間違いない。 でも、『永遠』の場合はそうはいかなくて。 「勿論、じゃ、とりあえず百年、きみを愛するって誓うよ」 御剣の身体をぐいっと引っ張ってこっちをむかせた。 俯いている額にキス。 「うむ」 ようやく御剣の御機嫌はなおったようだ。 「ねぇ、キスしよう」 顎に指をかけて、唇を寄せた。 御剣は目を閉じて、ぼくを受け入れた。 熱い夜が更けて、事後の火照った身体が少しさめたころ。 もう眠ったかと思った御剣が言葉を発した。 梳いていた髪をひっぱりすぎたのかと、ぼくは反射的に謝った。 「ごめん、起こした?」 「…もし……きみが」 「ん?」 掠れた声をよく聞き取ろうと、口元に耳を寄せた。 熱い吐息が頬に触れる。 「もしも、百年たって…きみが」 うん、百年後はギリギリぼくたちがぼくたちか。 それとも生まれ変わっている頃だよね。 「まだ、私を好きなら」 「勿論、好きに決まっているだろ」 「…迎えに来たまえ」 「うん。待っててくれる?」 ぼくは目の奥が熱くなった。 ぼくと同じくらい、御剣はぼくが好きなんだ、って思えた。 「待っている。…もしも…私がきみを忘れていたら…」 「大丈夫、ぼくはきみを覚えてるから」 あぁ、そっか。 きみが怖いのは、ぼくを信じることじゃなく。 自分自身を信じることなんだ。 「百年後でも、二百年後でも、何度でも迎えに行くよ」 「…ありがとう」 forever more forever love ぼくはきみと永遠の恋をした。 そして、百年毎の恋の約束をした。 −永遠に『最も近い』恋 |