定番のそのようなこと 前回のカレーから一ヶ月。 久しぶりに御剣がカレーを作ってくれると言う。 「あーあ。言いそびれちゃったんだよな」 あの日の夜を残念に思った。 夢中になって、言おうと思っていたことを忘れてしまった。 その後は、これまで御剣の家に通っていたので、言い出せず。 遅いと手料理を作ることもない。 「ただいまぁ」 それでも上機嫌にドアを開ける。 ドアの向うに御剣がいるのだがら、機嫌が悪い筈もない。 「おかえり」 「うわ・・・。ただいま」 扉のまん前で仁王立ちしている御剣。 いつもの礼服に、成歩堂が買ってきたエプロン。 実はいかがわしいサイトで買ったのだと知ったら、御剣はどんな顔をするだろう。 「新婚さんみたいだ」 成歩堂は、えへへと笑って、御剣の頬にキス。 「ただいま」 「おかえり」 御剣も成歩堂の頬にお返し、と軽いキスをした。 「いい匂いがする」 「あぁ、成歩堂・・・風呂に入るか?夕飯にするか?それとも、私・・・」 「勿論、夕飯だよ」 最後まで言うまえに息せききって、成歩堂が言う。 −あれ? 「・・・君は・・・私より、食べ物のほうがイイというんだな・・・」 −やってしまったー! 「いやっ。よく聞こえなくて。え?ホントにいいの?」 背を向けた御剣に靴を脱ぐのもそこそこにしがみつく。 成歩堂はずるずるとひきずられていく格好。御剣は振り返りもしない。 「ね、御剣?お風呂とご飯と御剣だったら、御剣に決まってるよ」 「カレーは何処でも食べられるけど・・・うう、御剣の作ったのは食べられないけど・・・御剣はここにしかいないから」 体勢をたてなおして、成歩堂は後ろから抱きつく。 振り払われないのをよし、として御剣の上着のボタンに手をかけた。 「いいだろう」 御剣が振り返る。手馴れた動作で、優雅に、成歩堂のネクタイをするすると解く。積極的にシャツのボタンを外していく。ベルトに手をかけ、 「待った!」 「待たない」 「ぼくだけ脱ぐの?」 「後でさせてやる」 ベルトを外すと、スラックスが落ちる。そして、御剣は成歩堂のトランクスを引きずりおろす。 「ふふ。もう反応してるぞ?」 若いそれを掌に包み、上目遣いに成歩堂を見上げる。 その目つきに、更に成歩堂は興奮した。 「元気がいいな」 「御剣が悪いんだよ」 成歩堂は赤くなりながら、それだけ言った。 御剣が色っぽいから悪いんだ。 御剣はその先端をぺろり、と舐めた。 「脱がしていい?」 「まだ駄目だ」 御剣は愛しむように、その肉に指を這わせ、そのあとを舌で辿る。 成歩堂のそれはどくどくと脈打ち、力を帯びてくる。 「これで充分」 お預けをくらっていた獣のように、成歩堂は御剣の服を脱がしにかかる。 エプロンだけ残した格好にしてやろうか、と一瞬思ったが、そんなまどろこしいことをしている余裕はない。 御剣は成歩堂の急いた様子に満足そうな表情を浮かべ、身を任せた。 「嬉しいけど。どこからこんなこと知ったのかい?」 「新婚さんだろう?新婚さんがやるらしい、ことを検索しただけだ」 満たされた表情で御剣は身体を伸ばす。 「ふーん。じゃぁ、エプロンで背中も流してくれる?」 「裸でいいではないか。何故、エプロンをする必要があるんだ」 「新婚さんはやるんだよ。調べてみたら?」 平然と弁護士は言いのけた。大体、『お風呂にする〜以下略』ということを新婚さんが行う、とかいているくらいなら、裸にエプロンでおねだりとか背を流すとか、アタリマエにかいているだろう。 「・・・検討しよう」 既に騙されている検事は、もう一度騙されそう。 「御剣〜。カレー食べたい」 御剣を食べて満足した筈の成歩堂は、カレーを二杯食べて、それからまた御剣を食べた。 −御馳走さまでした 赤い目元でぐっすりと眠り込んでしまった検事に心の中で挨拶をした。 |