One more time One more chance 「御剣へ もう何度目の手紙かな。きみに書いた手紙は引き出しいっぱいになったよ。この前整理したんだけど、いつまで持つか。またたまってしまうのは明らかなのに、返事も貰えないけど、やっぱり書いてしまう。きみはきっと笑うだろうね。それでもきみに会いたい。そうそう、意味もなく手紙を書いたんじゃなくて、真宵ちゃんが結婚するんだ。ぼくがお父さん役。ほんと、心境は花嫁の父だよ。御剣もきっといたらそんな気持ちになると思う。春美ちゃんも高校生になったし、時間はどんどん過ぎてるんだなぁと実感する。ぼくの弁護士バッチも銀色になったしね。今でも相変わらず逆転弁護士って呼ばれてるよ。それでも、ぼくだけ時間が止まってるみたい。これを書いてる瞬間でも、きみがあの扉を開けるんじゃないかとか。電話がかかってくるんじゃないかとか思ってしまう。つい、法廷でもきみの姿を捜してしまう。ぼくの諦めの悪さはきみも知っての通り。返事が貰えない手紙も昔とかわんないから、何だか今でも、まだきみがそこにいる気がする。きみの声が聞こえる気がする。また、御剣は外国に行ってて、前触れもなく唐突に帰ってくるんじゃないかとか。そんなこと、未だに思ってる。だいぶたまった手紙を読んで貰えるのは何時になるかわかんないけど、あまりの多さにきみが眉をしかめるとこも想像できるよ。ぼくは未だにきみにとらわれてる。あの日、手を伸ばせば、引き止めれば、簡単に、というわけにはいかないけど、きみに会うことは今でも出来ただろうに。あのとき、喉元まででかかった言葉を飲み込むことさえしなければ、きみにふられたかも知れないけど、永遠に失うことはなかったのに。ほんの数分、きみを足止めできればよかったのに。言い忘れてたけど、ぼくは勿論、まだ独身だよ。きみが今までの手紙を読んでたら既に気づいてると思うけど、御剣が好きだった。過去形じゃなくて、今でもまだ。きみが好き。いつか、きみに直接言うことがぼくの願い− 」 ・・・あぁ、御剣の声 「成歩堂!転寝してるほど暇なのか?」 半分あきれた顔の御剣がぼくの目の前に立っていた。 ぼくは、事務所の机でうつぶせになって眠っていたらしい。 「成歩堂?」 「あ・・・」 ぽろりと零れ落ちた涙。 御剣はびっくりした表情を浮かべた。 「・・・どうした?」 困った顔で覗き込んできた。 「何でも・・・夢だった」 きみがいなくなる夢。いなくなったあと、きみを思って、やっぱり忘れられないぼく。 性懲りもなく出す宛先さえない手紙をかいて。 まさか、御剣に『きみが死ぬ夢』を見たなんて言えない。 「すごく・・・怖い夢だったよ・・・」 「そうか・・・」 御剣は揶揄するわけでもなく、神妙に頷いた。 「大丈夫か?」 「あぁ」 机にかけられた白い手をぼくは握った。 あたたかい、しっかりとした感触。 −きみがここにいる 「御剣」 握り返してくれた手をぼくは更にぎゅっと握った。 「怖い夢、見そうだから、一緒に寝て?」 甘えた口調て言ってみた。 ちょっとだけ困った顔が可愛いと思った。 「そのようなことは・・・」 顔を真っ赤にして、次の言葉を言えずに視線をそらした。 「ぼくが好きなのは御剣なの。きみ以外と寝たいと思わない。ねえ、手を繋いでてくれるだけでいいのに」 「どうしたのだ?熱でもあるのではないか?」 白い手がぼくの額に触れる。 「ほんとに、ぼくはきみが好きなんだ。後悔したくないから、言った。迷惑かも知れないけど」 「・・・迷惑などでは・・・そう・・・少し、困惑しただけだ」 「少しでも望みあるって思っていい?ぼくを嫌いにならないで」 「きみを嫌いだと思ったことはない。どちらかというと好意を持っている」 「一緒に寝てくれるかな?」 「・・・いいだろう。・・・きみがそれで眠れるなら」 そんなわけで、悪夢を見たおかげで、御剣と一緒に眠ることが出来た。 逆に御剣が眠れないんじゃないかと心配したけど、なんのこともなくぼくより先に眠ってしまった。 抱きかかえてる最初はこわばってたけど、優しく撫でたりしてるうちに力が抜けてきて、そのうち眠ってしまった。あたたかい、とか呟いてた。 ぼくも可愛い寝顔をみてるうちに幸福感にひたされて、うとうととしてきた。 御剣の香りと体温で、もう悪夢を見ることはないと思った。 悪夢をみても、手を伸ばせばそこに御剣がいる。 彼がいないことが怖い夢なのだから、すぐに目覚めることが出来る。 「おやすみ、御剣。大好きだよ」 眠っているのをいいことに、額にそっとキスをした。 One more time One more chance で思いついたネタ。元ネタ帳より。 最初はせつないのだったんだけど、オチが考え付いたので書いて見ました。 |