記念日 「御剣、今日は何の日だと思う?」 「さぁ。手帳には何も載っていないが」 成歩堂は指をふってみせた。 「違うよ。記念日」 「何の?」 御剣は眉を寄せる。 ほら、と成歩堂が見せたのは昨年の手帳。 びっしりと埋まっているのはスケジュールかと、思ったのは一瞬だった。 「何だ、これは」 事細かに記された、日記のようなもの。 「御剣との記念日だよ。初めての法廷とか、初めての外食とか、初めてのキスとか、初めての風呂とか、初めて手を繋いだ日とか、初めて御剣が好きと言ってくれた日とか、喧嘩の回数とか、殴られた回数とか、キスの回数とか、御剣が夢に出てきた回数とか、おかずにした回数 「ちょっと待ちたまえ!」 最初から何かアヤシイというかヤバイ気配が漂ってきているが、最後のほうは間違いなく記念日というにはおかしすぎる。 「それは記念日とは言わないだろう。個人的な記録だ。日記帳だ」 「ぼくにとっては記念日なの。きみとの初めてのデートとか、そういうのだけじゃなくて、きみとしたこと全部をぼくは忘れたくない。だから、書いてる」 御剣は素直に気持ち悪いといっていいものか、もっとやんわりとまっとうな道を歩むように諭すべきか悩んだが、結局、どこまでいってもこの男を嫌いになれないことは身に染みてわかっていた。 「それはありがたいな」 困ったように笑ってみせた。 御剣の笑顔を見た成歩堂は嬉しそうに笑って、御剣を抱き締めた。 −成歩堂の笑顔に負けるのか 身体全体で、存在全体で、自分を愛してるといってはばからない男に、御剣はキスを与えた。 「私もきみを愛してる」 揺ぎ無い真実を見つけた−そのことに気づかされた−記念日。 |