逆転裁判X.5 御剣が見ている。 離れた場所から。 ぴん、と張り詰めた、冬の朝の空気に似た 視線を感じる。 あぁ、ゾクゾクする。 追って、追って、追いかけて、追いついて。 ようやく手にいれたと思ったら、するりと逃げ出して。 ぼくは君しか信じてないんだ。 君も信じられなくなったら、どうすればいい? ほんとに死ねばよかったのに。 そういったら、少し唇を噛んで、追い詰められたような落ち込んだような、そんな表情を浮かべて。 それは、ぼくに悪かった、と思ってるの?それとも、ぼくの罪悪感をあおっているの? ねぇ、御剣。 ぼくはほんとに、君が死ねばよかったと思ったんだよ。 そんなぼくをどう思う? 御剣はぼくがそう言っても信じないだろうね。 優しい、ぼくがそんなことほんとに思うわけがないって。 優しくて、いつも笑ってると評されるぼくは、ほんとのぼくじゃない。 他のひとに裏切られようが、嘘つかれようが、どうだっていいから、『優しく』いられるんだ。 簡単に『信じて』あげることが出来るのは、裏切られても、傷つかないから。 どーでもいいひとに裏切られたって痛くもかゆくもないでしょ。 君は他のひとと一緒じゃない。 御剣が死ねば− そうしたら、君を思って悩むこともなくなる。 ぼくの中の君の思い出を、抱いて生きてくだけでいい。 思い出の中の御剣は、ぼくを置いて行ったりしないから。 君の声を。 ぼくの下で喘ぐ、君の表情を 毎晩思い出して、眠ることにするよ。 君が生きてたら、今誰といるのか 何をしてるのか 誰かに抱かれてるんじゃないか そんな疑惑に苛まれながら生きていかなきゃならないからね。 もう、誰も君に触れることなど出来ないように、君が目の届かないとこに行くくらいなら、―死んでしまえばいい。 ・・・でも、生きてるから、仕方ない。 ぼくはまた、君を手に入れなきゃならない。 恋の駆け引き、はぼくも知ってるんだよ。 腹黒い職業じゃないか?ひとの心の襞をひとつひとつ確かめるような。 言葉の裏を探るような。そんな職についてて、ハッタリのひとつも出来ないわけないだろ。 それと一緒。 押して、押して、というばかりじゃ駄目だって。 たまには、ひいてみる、ということも駆け引き。 ね、こんな簡単な手が君に効くとは、正直思わなかったよ。 賢い君に、わからない筈ないって思ったのに。 案外、初心で、嬉しかった。 「成歩堂」 ようやく話しかけてきた。 わざと、数秒おいてから、御剣と目を合わせた。 視界に入ったら、大体ぼくから、話しかけるから、声をかけること自体、御剣にとっては大変なことなのかも知れない。奇妙な自尊心が関係してるのかも。 尊大な様子で、でも、少しばかり揺らぐ瞳で。 −本当にぞくぞくする。 背筋を快感が這い上がる。御剣が、ぼくを見ているー。 彼の言葉の続きを待つ。そう、いつもなら、ぼくが話しかけるところ。 『帰ろう』とか『食事に行こう』とか『家にいってもいい?』とか。 または、仕事の話でも。 ぼくは無言で、言葉の続きを待つ。 御剣は眉間の皺を少し深くして、唇を動かした。 「時間はあるか?」 声が震えなかっただけ上等。その位の苦労をしていることが、ぼくにはわかる。他のひとには決してわからないだろうけど。 「うん」 ぼくが頷くと、御剣が目を輝かせた。嬉しい、という表情。 かわいい、と思う。すぐさま、抱き締めて、キスしたい。 でも、彼は続けて何も言わない。そりゃ、そうかも。御剣から何かを誘ってきたことって少ない。 ぼくが何かを言うのを待っているんだ。 −ぼくは決めたんだよ、君ばかりに話しかけることをやめるって。 −君に話しかけられても、すぐに答えてもあげないんだから。 そうやって、やきもきする様を見せて。 見つめあって、どのくらいたったのだろう。 息をはくように、そっと、御剣が言う。 「では、ここを出よう」 隣を歩きながら、気づかれないように、その端正な横顔を眺める。 僅かな一瞬だけ、その表情が悩んでいるものとなる。揺ぎ無い自信に満ちた、その顔が、変わる様子、そして、そのことに気づいて、ふっと眼差しをあげて、きつく何処かを睨む様子− 堪らないよ、君のその顔。 君自身、若しくは君に夢見るひとのつくる、虚像の君を演じる為の努力。 無意識の努力なのだろうけど、 ねえ、君はまだ自分を完璧だと思っている? 「最近、私を避けていないか?」 ぽつり、と御剣がもらした。長い前髪が丁度、表情を隠す。 「そんなことないよ?何、言ってるのかな」 「そうか…私はそれを信じてもいいのか」 「信じる、信じないは自分で決めることじゃない」 「君は…私を完全に許してはくれないのだな?」 許す、許さないって、そういう問題じゃない。 ぼくは君を全肯定するよ。 「ちょっとは反省してるの?」 「反省している」 なんだ、素直じゃないか。 「・・・ぼくのうちに来る?暇でしょ」 御剣はほっとした表情で頷いた。 何も言わなくてよくなったから? ぼくが誘ったから? ぼくの言葉で安心したのかな? ぼくの笑顔に騙されてるの? Xは任意の数字です。 見えていない場所。 そんなこともあるかも知れない。 そんな話。 成歩堂の全ては計算ずくだと思うんですが、いかがでしょうか。 次回、Xは大好きな(笑)エ○シーンを書きたいと思います。 まだ、ナルミツではエ○助走状態。 どこまでふっきって書いてもOKなのか・・・ |