『専用』のリズム 幾日ぶりかな、こうして会えたのは。 でも御剣は見るからに不機嫌そう。 「やっぱり最近は忙しいから、疲れとかも溜まってるんだろうなぁ……」 「そうなのだ。今や日本だけで無く、色々な所から仕事の話や研修を持ち掛けられて……まったく、気の休まる暇も無い」 確かに、いつも御剣の携帯は『話し中』だったりするし、かといって別の電話に掛けても『留守電』で。 「僕も割と電話したりしてたんだけど、最近は掛けるのも悪いな、って思ってナカナカ……」 「待て成歩堂」 「ん?」 「キミからの電話は今月……一昨日に二回だけだったが」 「でも時間が空く度に掛けたりしてたんだけど」 「そうだったのか?」 「声が聞きたくて……って言っても、夜中に至るまで電話してたりもするよね」 「時差の関係上、以前よりは電話の掛かってくる時間帯に幅が出来てしまったのだ」 「そっか……」 はぁ、と重い溜め息をつく御剣。よっぽど疲れるんだろうな…… 「しかし、今は電源を切っているが……急な用件でも出来ていたらと、これはこれで心配にもなる」 「マジメだなぁ……」 「ム、私でなければならない仕事もあるのだ。責任を放棄し続ける訳にはいかないだろう?」 「でも少しぐらい休んだって良いんじゃないかな。せめて、僕と話している間だけでもさ」 「だが……」 と、何かを言い掛けて御剣は一度、言葉を切った。 「そういえば、さっきキミは私に電話を掛けていると言ったな」 「うん。そうだけど?」 「しかし、通話できたのは一月で、たったの二回だ」 「切ないよねぇ……」 「成歩堂。キミの言っている事が本当なら、私の忙しさも判るだろう?」 「判る……けど、その『本当なら』って何なのさ?」 「いや、実際に受話した訳では無いから『掛けていない可能性もある』かもしれないと……」 「異議あり!」 つい、僕は声を荒げた。 「僕はいつでもどこでだって、きみの事を考えてるのに。電話すらしてないなんて、どうして考えられるのさ」 「しかし私にはそれが判らなかったのだ。携帯の呼び出し音が鳴る度、ディスプレイの画面はキミ以外を示していた」 「だからって……っ」 と、そこで僕は御剣の表情が曇っている事に気付いた。 ……もしかして、悲しんでいる……? 「御剣……違っていたら悪いんだけど」 「……なんだ」 「仕事の間に、僕からの電話があったら……少しは、気が休まったりする……?」 ――うわ。 御剣、そんなに真っ赤になったら『答』がバレバレだよ……。 「うるさいッ! そ……」 慌てて怒りの表情を作っても、 「そんな事、ある訳が無いだろうッ!」 必死に文句を言ったとしても。 御剣の内心は、僕には手に取る様に判っちゃったんだから。 「うん、判ったから落ち着いて」 僕は御剣を宥めながら、何か良い案はないかな、と考え始めた。 「あ、アンタ。また何かの調査ッスか?」 御剣よりは段違いに会い易いイトノコ刑事が、僕を見付けて話し掛けてきた。 「まあ、今の事件……まだ謎が多いですからね」 「ナゾ、ッスか……」 イトノコ刑事はそこで少し考えてから、 「そういえば、最近ちょっと御剣検事がナゾめいてるッス」 と僕に切り出す。 「……どういう事ですか?」 「そうッスねぇ……確か、先週くらいからッスが、突然に機嫌が変わったりしてるッス」 ……『先週くらい』か。 思い当たる節のある僕は、イトノコ刑事に訊いてみた。 「もしかして、それって……機嫌が『良くなる』とか……?」 「そうッス!」 やっぱり。 「昨日も、またミスをした時……御剣検事は確かに『来月の給与』って所まで言ってたッス。……でも、ふいに黙り込んだと思ったら、急に『まあ良い』とか言ってオトガメ無しになったッス」 「へえ……」 「その時の御剣検事、心なしか嬉しそうだったッス」 自分も嬉しそうに笑いながら話すイトノコ刑事。 それを聞いた僕も嬉しくなってきた。 実は御剣と電話の話をした後、僕は薄型の携帯を一つ、御剣にプレゼントした。 僕が電話を掛ける時はそっちに掛けるけど、忙しかったら取らなくても良いって言いながら。 だからその携帯は常にマナーモードで、着信音が聞こえない様になっている。その代わりに僕が電話を掛けた時は振動が御剣に伝わる、という訳。 まだ、その電話で通話した事は無いけれど……少なくとも御剣に『僕が電話をしてる』って事は伝わっている。 そして今のイトノコ刑事の話から察するに、これは御剣にとって少しは嬉しいものらしい。 僕からの電話で機嫌が良くなった、というのはモチロン僕にとっても嬉しい事で。 ここの調査が一段落したらまた電話してみようと、僕はコッソリ微笑んだ。 |
梨沙様より頂き物です!ありがとうございました! 専用のリズム、タイトルも素敵な響きです。 なるほどくんは、御剣検事のポケットのなかで、自分の思いが震えてる!と喜びそうです。 その僅かな振動を、御剣に感じ取って欲しい。 いつでも、君と僕は、繋がってる― そのバイヴレーションは、僕の君への鼓動の高鳴り。 とか、ポエるなるほどくんも面白いかもしれませ・・ん、と妄想してしまいました。 通話ボタン押して、話すわけでもなく、コールするだけでにやにやしてるなるほどくんを見て、さぞかし真宵ちゃんはキモイなぁと思っているかも知れません。 しかし、そんなことは、『公認』のストーカーになった今(え?恋人?/笑)は全然守備範囲。 15年間の『非公式』ストーカー行為に比べればッ!! 何はともあれ、なるほどくんは寝ても覚めても御剣検事のことしか考えてなさげなところが素敵ですよね。 |