注意:封神演義と逆転裁判のごった煮小説です。 ヒコブン+ナルミツです。 激しい描写はありませんのでその点は御安心下さい。 推定犯罪 「黄飛虎。殺人未遂の現行犯で逮捕する」 神妙にせい、と自信満々な様子で手錠をかちゃり。 「なんのことだ〜っ。俺、こんな趣味ねぇぞ」 手錠をかけられて、飛虎は勘違い。どちらかというと、拘束されるよりしたい。綺麗な恋人を。 聞仲はぴくりとも動かない。しどけなく身体を寝台に横たえたままだった。 「これで給料上がるかも」 スキップ踏みそうな刑事に引っ張られて飛虎は連行されていった。 あれよあれよというまに法廷に出された。 無罪を主張する飛虎の弁護士が紹介された。因みに国選だ。 ノリとハッタリ弁護士登場。 この弁護士は1%のノリ(ツッコミ)と99%のハッタリ(度胸)で構成されているという噂。 ―大丈夫か、おい 己の無罪を確信しているものの、これじゃ勝つものも勝たないんじゃ、と冷や汗がたらり。 「俺は無罪だ。あいつを殺すなんてできっこない」 無論、能力的にも不可能だが、聞仲を殺すくらいなら自分が死んだほうがいい。ひたむきな眼差しで弁護士に訴える。彼は爽やかに笑って言う。 「無罪を信じていますよ。任せてください」 彼の顔を見ながら、視線はもうちょっと上に行く飛虎。随分変わった髪型だなぁ、時代は変わったんだな、としみじみと思った。 反対に検察側は怜悧な美貌の若い検事が立つ。初めて彼を見る者は思わず、その美貌よりも衣装に気をとられてしまう。裁判所は劇場か或いは闘技場か。派手な衣装はフランスのお貴族様のよう。ヒラヒラと真っ赤は闘牛の目が釘付けになりそう。 彼の姿を別室から映像で見て、聞仲は誰かを思い出しそうになった。しかし、彼は軽そうにも馬鹿そうにも見えない。中身は衣装にそれ程左右されないんだ、と妙なところで感心してしまう。 「裏づけ調査の結果・・・」 証拠品として出されたシーツには夥しい血。被害者の手足を縛る拘束用具、血を拭った手拭も提出された。それらには血だけでなく、あからさまな体液がこびりついた痕もある。 証人からの証言として述べられる。 「うめき声を聞いた」 「痛い、離せと叫び声を聞いた」 「悲鳴を聞いた」 「手足に残る痕を見た」 「身体に痣があった」 「凶器で突き刺そうとしているのを見た」 「無理矢理おさえつけていた」 「叩いているような音がずっと聞こえた」 検事が朗々と読み上げる。その顔には似合わないそういうシーンを妄想させる証拠品と証人証言に、顔を赤らめる者続出。被害者の顔を知らぬ為、検事がそういう目にあっているところを想像してしまって、股間を押さえる者も。弁護人までそわそわしている。 「何より、過去に二人は生死をかけて戦っている。これも殺意を肯定する証拠だろう」 最後にそう締めくくる。 「証人もこちらに」 ずらりと並ぶ面々。どの顔も飛虎にはありすぎるほど見覚えがあった。 「間違いありません」 「誓います」 口々に宣言する。 「被告は被害者を監禁し、暴行をくわえた上に殺害しようとしたと結論づけられます。凶器は見つかっておりませんが、明らかに犯罪が行われております。発見されたとき、被害者は意識を失っておりました」 「異議あり」 バンっと机を叩いて、弁護人が叫ぶ。ようやく自分の職を思い出したようだ。 背後の傍聴席、先端恐怖症の気のある傍聴人が数人、彼から目をそらす。 無数のトンガリが目に突き刺さりそうな感じがして怖いのだ。 「そのギザギザを振り回すな。障害未遂で立件されたいか」 後ろの人々の様子を見て、検事が呟く。呟き声にしては大きく、わざと聞こえるように言っているとしか思えない。 「ギザギザって言うな!関係ないだろ」 思わず痴話喧嘩に発展しそうなところを、こほんと咳をして威厳を正す。 「それは互いの了解の上に成立している行為だということです」 「検察側のいう凶器とは、このことでしょう。これは凶器ではありません。因みに本物は個人のプライバシーに関わるので複製品を用意しました」 自信満々に男根を模した複製品を取り出す。リアルな形に、法廷はどよめく。 「こちらが被告の持ち物です」 もうひとつ、弁護人は同じものを取り出す。だが、先程の一般的な大きさのものと違って、二倍はいかなくても相当に大きい。更に法廷内のどよめきが大きくなる。 「そのようなあれを持ち出すのは!・・・その・・・」 検事は色を失う。その弁護士の奇天烈な行動にハリセンでツッコミをいれてやりたい。 「レプリカじゃ駄目ってなら、本物を・・・まず平均的なものから」 ごそごそ、と弁護人が己の持ち物を取り出す。あり得ない弁護士の行動に、傍聴席では目を覆うもの、反対に乗り出す者、と大変な騒ぎだ。 「あ、黄さんも出してみてくださいね」 弁護人、被告に声をかける。 「猥褻物陳列罪で訴えて勝つぞ!裁判長!」 白い顔にうっすらと朱を浮かべて、検事が叫ぶ。 「そのような貧相なものを出すのは法廷侮辱罪が適当かと」 「ひ、貧相・・・そんな」 がっかり、と崩れ落ちる弁護人。うなだれた主と違い、トンガリ部分は相変わらず天を指している。 「大丈夫だ!成歩堂のは全然貧相じゃない!」 慌てて弁護人を弁護する検事。 「御剣・・・」 うるうる、と瞳を輝かせて、恋人を見つめる成歩堂。弟子の情けない姿に今更ながらに千尋は頭を抱える。 「名誉毀損で訴えろ。勝てる」 私もついている、と弁護士の傍に駆け寄り、その手の上に白い手を重ねる。 「そうだな。ぼく、頑張るよ。今夜も」 「馬鹿・・・」 二人の世界に入りきってしまった。 俺どうなるんだろ、と被告席の飛虎は口をあけて二人の様子を見つめるしかない。 検事側、弁護側と別れた二人はロミオとジュリエット気分なのだろうか・・・ 昔の自分と聞仲を思い出して、目の奥が熱くなる飛虎だった。 ああやって己の正義を戦わせたものだ。 現在では議論といえば、食事は何にするかとか、夜の営みの回数が多いとかしつこいとかで聞仲が怒るくらいで。それに対して、お前も気持ちよがってたくせにとか言うもんだから、喧嘩になるというもの。 ―帰ったら聞仲に謝ろう 訴えられてしまうということは、さすがに己はやりすぎたのだろう。 聞仲が訴えたのでなくても、周囲にバレバレ、回りから見てもやりすぎということだ。 「・・・疑わしきは被告人の利益に・・・」 盛り上がる二人をよそに、裁判長は木槌をたたく。 「判決。(推定)無罪」 「ぼくのはやっぱり貧相なのかな」 本日の弁護した相手のものを思い出して成歩堂は遠い目をした。隣で余韻に浸って身体を横たえていた御剣は力なく、シーツをたたく。ぽふ、と可愛い音がする。 「異議あり」 「その心は?」 「その・・・それは私には丁度いいと思う。あれ、は大きすぎる。犯罪だ・・・」 受、にしか判らない恐怖なのか、御剣の額に違う意味の汗が浮いている。 「私には無理だ・・・よく死なぬものだ」 こちらも遠い目になりながらぶつぶつと呟き始めた。アレを受け入れる位なら死を選んだほうが楽だろう。 「御剣がいいって言うならいいや」 成歩堂は御剣の頬に自分の頬を寄せた。 「もう一回いいかい?」 「異議はない」 「意義はあると思うよ」 そのギャグをさらりと流して、検事は弁護士を引き寄せた。 「聞仲、ごめんな」 飛虎は聞仲を抱き締める。 「俺が悪かった。これから自重する」 頬に、額に、唇に、キスを降らせ、柔らかく抱き締める。 「辛かっただろう。俺、我慢する」 甲斐甲斐しく風呂に入らせ、服を着せる間もひとつも悪戯をしなかった。 寝台に共寝しても、聞仲は大きな胸に抱きこまれただけ。 「その・・・別に私はそれが嫌ではなかったのだ・・・が・・・」 真っ赤になって呟く。 「聞仲・・・」 「縛ったりするのは嫌だ」 「うん。ごめんな」 飛虎は二度と傷つけない、と誓った。か弱い箇所を使いすぎないように、節度を約束する。 そして、二人は愛の営みを開始した。 一儀を終えたあと、聞仲は何かを思い出すように視線を彷徨わせる。飛虎の髪を撫で、指に絡めてみて、呟く。 「お前も柔らかいわけではないが・・・あれは目にささったら痛かろう」 「うん。俺もあいつの髪型は気になった」 同じことを考えていたのか、と目を合わせて笑った。 |