Eternity





「いい加減認めなよ」


「何を」


告白して、振られたばかりの成歩堂。
それでも、落胆の様子は伺えない。
それどころか、自信満々の表情。


「きみはぼくが好きなんだから」


あまりの言葉に、御剣は目をむいた。

「…キミは今、振られたばかりだということを理解しているか」

「うん。『お断りする』って。これでかれこれ三十回目」

そう、成歩堂はここのところ毎日のように御剣に告白しては、素気無く断られる、という行動を繰り返している。


「いい加減に諦めてくれたまえよ」

「三桁の大台に乗る前に何とかしたいと思ってるんだよねぇ」

成歩堂は御剣の話を聞いてはいない。


「成歩堂!」

「・・・あのねぇ、御剣」

そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ、と肩をすくめる。

「それに、ぼくにはちゃんと根拠があるんだ」



「ほう、聞かせて貰おうか」


「きみはね、一度もぼくを『嫌い』って言ってないんだよ」


御剣は苦虫を噛み潰したような表情になる。


「確かに」


不利な証言ではあるが、認めざるを得ない。


「それにね、『タイプじゃない』とも言ってない」


成歩堂は御剣に迫って、素早く腰を抱いて引き寄せる。


「・・・セクハラだぞ、成歩堂」

「きみに訴える気があればね」


御剣は口をつぐむ。


「だが、私はキミとお付き合いをする気はないのだよ」


それは彼の中で事実だったから、何の躊躇いもなく、成歩堂に告げる。


「お付き合いをする気がないのはどうしてなのかな。ぼくはそれがわからない」

「・・・そんな一時的な感情の昂ぶりに付き合っているほど暇ではない」


成歩堂は噴出した。

御剣は成歩堂を睨みつける。

「何がおかしい」


「きみはつまり、ぼくの心変わりを既に疑ってるわけだ」

「な、何!?」

思ってもみない成歩堂の発想に御剣はついていけない。


「もしぼくの愛情が永遠なら、ぼくに付き合ってもいいって思えるんでしょ?」


そう取られるとは、と御剣はどう切りかえそうか思案する。

「ねぇ、ぼくを信じてみようよ。ぼくのこと、好きでしょ?」

「嫌いではない」

「好きっって言ってみて?言えない?」

「ぼくは何回でも何百回でもいえるよ」

「それは、きみの勝手だ」


御剣の反論は小声だ。


「そう、ぼくは勝手にきみを好きになって、勝手にきみに好きって言って、そして、勝手にきみに片思いのまま寂しく死んじゃうんだ」

「・・・成歩堂!」

「孤独死決定だよ。大丈夫だよ。別に自殺するわけじゃないから。遠い未来の話だよ」

「そういう言い方をするな」


御剣の表情があまりにも哀しそうに見えたので、成歩堂はごめん、と小さく謝った。


「・・・わかった」


「何?」


「きみとお付き合いというのをしようではないか」


「ほんとに!?」

喜びのあまり、腕の力を抜いてしまって、御剣にするっと逃げられた。
慌てて伸ばした手はかわされて、


「そのかわり、心変わりでもしようものなら・・・きみの弁護士生命を絶ってやるからな!」


びしっと指先をつきつけられて。

くるりと背をむけて、御剣は成歩堂が追いつけない速度で立ち去ってしまう。

呆気にとられた顔で暫くたたずんでいた成歩堂だったが、御剣の表情や言葉を反芻して、締りのない微笑を浮かべて、ものすごい速さで小さくなる赤い背中を見送った。