Y-chromosome








愛しい、彼を抱きたいと思うのは。

キスして、手を繋いで、寄り添って、そんなのでは全然足りない。

抱き締めて、穿って、揺さぶって、縋らせたいと強く思うのは。

身のうちから止めようもなく溢れるその思考、ひょっとしたら屈服させて、跪かせたいとまで。

自分なしじゃいられない、と言わせたいと思うのは。



自身の持つ雄の遺伝子のせいか、それとも、彼への想いに由来するものだけのせいか。



成歩堂には全く判別はつかない。

でもー

遺伝子だけの所為にするには、子孫を残さないこの想念はおかしくて。


それとも、遺伝子からして狂っているとしたら。

それはそれで、やっぱりおかしくて。



男性であれ、女性であれ、他の者にはそんな感情を抱いたことがない。

好きになった女性にも。その上、他の男性を好きになったことなどは一度もない。




『御剣怜侍』という存在に、自身が『狂って』いるのだと、成歩堂は結論づける。




そして、納得して、安心する。


目にも見えない遺伝子なんかに、受け継がれてきた何かに、無意識に踊らされて、彼を求めているわけじゃなくて。
この魂が、彼を好きで、求めているという事実に。

自分の存在理由を見つけて、成歩堂は幸せになる。





事後の心地よい疲労に、眠りにたゆとう御剣を見て、目を細める。
可愛いと思う、愛しいと思う。
その気持ちは、自分の『魂』から生まれるもの。


「御剣、愛してる」


しなやかで滑らかな身体をぎゅっと抱き締めて、成歩堂は囁く。

まろどみの中の御剣がわずかな反応をかえす。
言葉の意味は理解していなくとも、その甘い響きに、寄せられるように、身体を押し当てる。


「あぁ、御剣、大好き」


頬に頬を摺り寄せて、成歩堂は甘い柔らかな匂いに包まれて、ゆっくりと眠りにおちていく。