Love












「みつるぎ」

何度繰り返しても、まだまだ言い足りない。
みつるぎ、と名前を呼んだら、きみが振り向いてくれる。

そのときに浮かぶ、表情はぼくだけにむけられたもの。

不遜そうなそれも、不機嫌そうなそれも、偉そうなそれも。

ーそして、たまに、笑顔も。


御剣、とぼくは言葉を口の中で転がす。
何ともいえない甘美な響き。

みつるぎれいじ。
世界に唯一のきみ。


そう、『御剣』と呼べば、ふりむいてくれる。
携帯を鳴らせば、目の前にいなくたって、声が聞ける。



「御剣」


「何度も呼ばずとも聞こえている」


呆れた表情で、きみは微かに笑う。


「御剣」


「聞こえている」


「怜侍」


一瞬だけ、御剣は目を見開いて、横をむいた。


怜侍、より御剣のほうがしっくりくるのはどうしてだろう。



「御剣」


ぼくのほうをむいてほしくて、指を絡めた。


「聞こえている」


「聞こえてる?」


「御剣、大好き」


見る間に御剣の真っ白な頬が綺麗に紅くなった。


「聞こえてる?」


「・・・」


小さな声で、聞こえている、と答える御剣が可愛い。


「御剣、愛してる」


目が潤んじゃって、俯いてしまった。


「ねぇ、ぼくは御剣が好き」


さらさらの髪にゆびを通し、頬に掌をぴったりあわせる。
かがみこんで、御剣の視線を追う。


「聞こえてる?」


御剣は唇を動かす。『聞こえている』と。


「御剣はどう思う?ぼくのこと」


御剣の頬に触れている手が熱い。
滑らかな膚が発散する熱。

こんなに御剣に『熱』があるとぼくは知らなかった。


「ぼくは御剣と結婚したい、きみはどう?」


御剣の左手に指を絡めて、きゅっと握った。


「ぼくは、永遠の愛を誓うよ。きみがたとえ誓ってくれなくても」


白い、すべすべした陶磁器みたいな膚。
絡め取った左手を軽く持ち上げて、ぼくたちの視界の間に引きよせる。

形よい、指。薬指に唇を落とす。


「愛してる、御剣」


御剣は手を払ったりしなかった。
ぴくん、と指が震えただけだった。


「ぼくはこの先も、永遠にきみだけを愛するよ」


一方的lな愛の宣言。
それでもぼくはすごく満足。

御剣、って呼ぶだけより、『御剣、愛してる』、その響きに夢中になった。


「御剣、愛してる」


何度も何度も繰り返す。


御剣の手が動いた。
離されるのかな、と少し寂しくなったけど、仕方ない。
御剣はあんまりスキンシップが好きじゃないみたい。


でも、予想に反して、御剣の手はぼくの手を引き寄せただけだった。
同じ左手を。


柔らかな感覚。

薬指に落とされた口付けにぼくは呆然とした。

御剣が、ぼくにキスしてくれた!


すぐに御剣は顔をそらしてしまったけど。


これって愛されてるってことでしょう?



「御剣、大好き」


もう沸き起こる感情のままに御剣の身体を抱き締めた。


「御剣」


紅くなってる耳元で何度も何度も繰り返す。


「大好き」


「御剣、ぼく、世界一しあわせ」


御剣の唇が動いた。


「奇遇だな。私もそう思ったところだ」


偉そうな口調に割に、顔もあかくて、ちょっと声色も震えてて。

最高に可愛い御剣。


「明日は今日より幸せだよ」


だって、不幸になんてなりようがない。


きみがぼくを好きなんだから。

そして、明日より明後日、明後日よりその次。毎日毎日幸福が貯まっていく。

だって、きみがぼくを好きでいてくれるから。

名前を呼ぶだけでもしあわせ。
愛を囁ければもっと。


二人で愛を紡げるのだから最高に幸せ。




「御剣、ぼくを好きになってくれてありがとう」




ぼくはもう一度、いい匂いのする御剣をぎゅっとした。