Bonanza いい匂いがする。 気持ちのいい夢を見た。 それがどんな夢だったのか思い出せないけれど、ふんわりとした気分で目覚めた。 夢の中と同じいい匂いがした。 まだ夢を見ているのかな… ゆっくりと伸びをして― 何かあたたかなものに触れた― 「!!」 ぼくは声をあげそうになって、どうにかそれをこらえた。 触れたあたたかなモノは、御剣だった。 そうだった。 あまりにも非日常で、夢のような出来事だったから、すっかりぼくの記憶から抜け落ちてた。 ずっと、御剣のその背を追ってきた。 振り返ることのない、まっすぐな視線を追ってきた。 意志が強くて、まっすぐで、それでいて脆いきみ。 御剣はやっぱり変わっていなくて、ぼくはとても嬉しかったんだ。 黒い噂とか容疑者になったりとか、いろいろあるけれど、御剣は御剣で。 …うん、多分、どれも結構どうでもいいのかも知れない。 何より嬉しいのは、きみに触れることが出来るコトだから。 釈放された御剣を強引に自宅に誘って、つもる話をしようとした。 本当に、そのときはそれだけのつもりだった。 何の弾みだったか、御剣の指先に目がいって― 「御剣の指って綺麗だね」 動きが優雅というか、それで視線がいったのかも知れない。 自分とは違う、なんだかとても綺麗なものに見えた。 「そうだろうか?」 御剣は自分の手をかざすようにしげしげと眺めた。 「うん」 ぼくは御剣の手を取った。 指を重ねてみる。 「色も白いねぇ」 指を絡めてみた。 御剣の指がびくっと動く。 「痛かった?ごめん」 「いや…その…慣れていなくて」 手を繋ぐのに、慣れているとか慣れていないとかあるのかな… でも、御剣の少し紅くなった顔が可愛いと思ってしまったんだ。 「はじめて?」 冗談めかして聞いてみた。 「…はじめてではないが」 ふうん、そうか。 御剣の髪を梳く。 御剣は目を一瞬閉じて、身体をかたくした。 でも、こんなことはきっとはじめてじゃないよね。 「きみの、はじめてが欲しいな」 何でもいい。きみにとってなにか、ぼくがはじめてになりたい。 御剣がぽかんとした珍しい表情をして、次に指を絡めたときと比べ物にならないくらいに紅くなった。 「その…そのような……ことはどうかと」 更に珍しくも視線をそらしてしまう。 ぼくは何を言ったのだろう… 「え?そのようなって…?あ?っと…」 そこでぼくも恥ずかしさで真っ赤になった。 きっと御剣はそうとったんだよね。 ぼくがきみと寝たいって意味だと思ったってことだよね? 『はじめて』が欲しいで、ソレを思いつくってことは御剣はその…少なくとも男とシたことはないってコトだよね… 「えっと…ソレじゃなくてもいいんだけど…何でもいい」 片手は御剣の手を握ったまま、だってその手を急に離すのもどうかと思ったんだもん。 手をつなぐ 抱き締める キスをする そんなことでもいいんだけど。 またしても逆転の発想をすると、御剣はどう見てもいい男だから既に経験済みだろうな… 「思いつかない?」 思いつかなければいい、と少しだけ考えた。 紅い頬に手を添えて、膚の滑らかさを感じ取った。 体温低そうに見えるけど、今はとても熱い。 御剣は目を伏せたまま、頷いた。 「はじめて、貰ってもいい?」 そんなワケで、御剣のはじめてを頂いてしまいました。 気持ちいいとかそういうのを飛び越えて、幸福の絶頂。 ずっと追いかけてきた相手が腕の中にいて、ぼくに全てを委ねてくれて。 嬉しくて、幸せで、得意な気持ちになった。 でも、あまりにもぼくに都合がよすぎるから、夢かも知れないとも思っていたんだけど… ぼくは御剣を起こさないようにそっと上半身を起こした。 大学生が住むのとさしてかわらないマンションの部屋に、御剣という存在は少しばかり浮いてみえる。 御剣だけが非日常。この部屋の中で、高価すぎる。 怖い夢は見ていないようで、随分と安らいでいる表情。 それが嬉しくて、ぼくの表情もつい緩む。 きっとだらしない顔をしてるんだろうな。今、御剣に見られたくないや。 眉間に皺のはいってない御剣は少し幼く見える。 飽かずその綺麗な顔を眺める。 だって、めったにない機会。 …勢いで抱いてしまったから、二度目はないかも知れないし… そういえば、『愛してる』は兎も角『好き』だとさえ言ってない!! それに気づいて、ちょっとした衝撃がぼくを襲った。 うわぁ、どうしよう。目が覚めたら言おうか。 うん。そうしよう。 何て言おうか。 「御剣、好き」 「ずっと好きだった」 「愛してる」 「付き合ってください」 「結婚してください」 うーん。それはちょっと時期尚早っていうか、法に携わる者としてツッコミどころ満載な気がするな。 それより、まずは労ったほうがいいのかな。 「身体大丈夫?」 「痛くなかった?」 それとも褒めたりしたほうがいいのかなぁ。 「綺麗だったよ」 「すごく気持ちよかった」 言葉にしてみるけど、何だか恥ずかしいね。 御剣がもぞりと動いた。 起きたのかな? あ、布団を引き上げた。 「御剣・・・?おはよう」 顔が見たくて、布団を引き剥がす。 あれ、真っ赤になってる。 昨夜のこと思い出してるのかな。 朝から何とか、ってもごもご言っている。 「ひょっとして…全部聞こえてた…?」 「きみの気持ちはよくわかったから…頼むからもう何も言わないでくれたまえ」 今度はぼくが真っ赤になって布団に顔をつっぷした。 |