Night








唐突な停電。

成歩堂は最初、電気が切れたのかと思った。

「あれ?」

テレビも付かない。
音楽も切れてしまっている。

「停電かな」

懐中電灯とかないよね、と御剣のほうをむく。
暗いから、彼の表情はよくわからない。

窓にむかって、そろそろを足をすすめる。
途中で何かを蹴った気がしたが、壊れたような感じはなかったのでそのままにした。

厚いカーテンを引っ張る。
外も同じく闇だった。


「停電だね」


夜空を見上げるが、雲が厚いのか月も見えない。
都会では星など滅多に見えるものでもない。

星明りで、というロマンチックなことは出来ないなと思った。


「御剣?」


ここにきて、彼が一言も言葉を発していないことに疑問を抱いた。

御剣を蹴っ飛ばさないように、そっと彼のいる場所に近寄る。

暗闇に慣れてきた目が、影をとらえる。

「御剣?」

そっと手を伸ばして、肩を抱く。

身体が震えている。


「・・・寒いね」


暖房も切れちゃったし。
成歩堂は御剣が震えていることは指摘しなかった。


「電車も動かないし、泊まっていい?」


御剣の頭を抱え、優しく髪に口付ける。
きっと混乱している彼は気づかない。


「シャワーも使えないし。もう寝ようよ」


御剣のフリルタイを手探りで外し、ベストを脱がせ、シャツの釦を外す。
震えるだけの彼は、何も抵抗しなかった。


「寒いから一緒に寝よう」


服を脱がせて、自分も脱いで、御剣を抱き込んで、成歩堂はベッドにはいる。

「夜だから、暗いのは当たり前だよね」

抱き締めて、御剣が不安にならないように、とりとめのないことを話し続ける。


「寒くないのか?」

震えがとまったと思ったら、御剣がそんなことを聞いてきた。

「寒くないよ?」

「私は・・・あたたかいと思う。だから、私の身体はきみにとって冷たいのではないだろうか」

真面目な顔で言っているのだと判っているだけに、何となく面白かった。

「あったかいよ。御剣。だから抱いていていい?」

更にきつく抱き締めて、素肌をぴたりとあわせる。
少しひんやりとした感じは受けるが冷たいとは思わない。
何より、御剣の身体を抱いていると思うと、成歩堂の熱が上がる。

「あっためてあげる」

「なっ・・・」

軽く大腿部を撫でると、それだけで御剣の体温が少しあがる。

「馬鹿ッ」

「きみも触っていいよ」

「触るかぁッ。あっ」

首筋に唇をあてると、可愛らしい声をあげた。

「こんなときに、言うのは、ちょっと反則かも知れないけど」

成歩堂は御剣の双丘を撫でる。

「ぼく、きみが好きなんだ」

「・・・」

「恋と戦争では手段を選ばなくていいって言うし。反則ではないかもね」

御剣の顔をぺろり、と舐める。
小さく声をあげて、首をすくめてしまった。

「夜が明けるまで、答えだしといて」


夜が明けたら、御剣のあられもない肢体を存分に眺めよう、と成歩堂は闇の中でにやけた表情を浮かべる。

「いてててて」

抱き込んだ御剣に胸元をひっかかれた。

「きみはひどい。こんな時に」


「うん」

「何も考えられないではないか」

「そうだよね」

「・・・きみのこと以外」



柔らかなものが成歩堂の肩に触れる。


唇だと気づいて、成歩堂の身体が熱くなった。


「熱いな、成歩堂」

「きみがそうしたんだよ」


「・・・きみの身体も熱いよ」


「・・・きみに触れられたからだ」



どちらからともなく、互いの顔をまさぐりあう。
そして、二人はぎこちなく唇を重ねた。



―このまま停電が夜中続きますように



そう願ったのは、二人とも。



素直になるきっかけを与えてくれたアクシデントに感謝した。