Deal 男に抱かれることに嫌悪はなかった。 自身が許した相手に限ったことだが。 求められて、応じることで事が優位に運ぶなら、寧ろ得な取引だと思っていた。 貫かれて、揺さぶられて、相手にすがってみせて。 視線ひとつで、気持ちが判るようになった。 相手が自分を求めているかどうかー 一瞬にして、どのような態度をとれば一番御気に召すのか、まで。 「其処で何をしている」 マンションの入り口で、見覚えのありすぎる特徴ある姿を見つけた。 疲れていたので相手にしたくなかったが、目の前にいるからには、仕方ない。 用があるなら早めに切り上げて貰って、今日は休みたい気分だった。 「きみを待ってたんだよ」 「用件はなにか」 「此処じゃ、きみは困るんじゃないかと思うよ」 御剣はわかりやすいくらい柳眉をひそめて、成歩堂を睨んだ。 「本日でないと駄目か」 「そうだね」 深く、聞こえるように溜息をつくと、御剣はついてこい、と成歩堂に合図した。 「それで」 ソファに深く腰掛けて、背を預けてしまった成歩堂に、御剣は冷たく言い放つ。 「何から話そうかなぁ」 「用件は簡潔に、的確に」 「御剣は厳しいよね」 そんなところも好きだけど、と言った成歩堂の言葉に御剣は我が耳を疑った。 軽い発言だろうと流すことに決めた。 「うーんとね。ぼくは御剣が好き」 「そうか」 「あれ、驚かない?」 成歩堂は腕を組んだまま立っていた御剣を引っ張って、隣に座らせる。 「きみと寝たいんだけど」 「お断りする」 「どうして?ぼくじゃ駄目なの?」 「私はきみを愛してはいない」 「・・・きみは誰も愛してないよね。でも、ぼくはきみが男と寝てるの、知ってるんだよ」 御剣は目を見開いて、視線をそらした。 「だったらどうした」 「だから、ぼくと寝るのもいいんじゃない?」 成歩堂は素早い動きで御剣の肩を押さえ、ソファに押し倒す。 「やめたまえ。そんな気分ではない」 あくまでも冷静に御剣はこたえる。 「今日も誰かとしてきたの?此処、痕がついてる」 首筋に触れられ、御剣ははっと其処を押さえた。 痕をつけられた記憶はない。 「ひっかかったね」 誘導尋問だったのか、と唇を噛む。 「疲れてるから気分じゃないの?その気にさせてあげる」 「・・・きみとはしたくない」 「駆け出しの弁護士じゃぁ、何のメリットにもならないから?」 きみはそうやって上にのぼりつめたの、と耳元で囁かれた。 「きみは・・・友人だと思っている。だから、出来ない」 至極真っ当な意見を御剣は口にした。 「うん。ぼくはきみを友人だと思ってない。だって、きみに欲求を抱いちゃうんだもん。もう友人ではいられないよ」 「成歩堂ッ」 「ぼくを振る?」 スーツの上から上半身をまさぐられる。 それだけで、熱が上がる。 先刻まで男を受け入れていた場所が疼き、力が抜ける。 「たまには若い男もいいんじゃない?ぼくを愛人にしなよ」 耳朶を唇で食まれ、御剣は声を漏らした。 「恋人じゃなくてもいいよ」 御剣のドレスシャツを肌蹴させ、手際よくベルトを外す。 「やめろっ」 押しのけようとする腕にはいつもほど力はない。 スラックスをひきずりおろされ、成歩堂の手が大腿部に差し込まれる。 急所に触れられ、御剣の動きが止まる。 「此処かな」 「あッ」 後ろに指が潜り込み、御剣は背をそらす。 「緩んでるね。すぐに挿入られそうだ」 御剣は羞恥に顔を真っ赤にする。 両脚を膝が胸につくほど折り曲げられた。 「綺麗な色」 「ひゃ・・・」 成歩堂の舌が入り込む。 痺れていく感覚に支配されて、御剣は彼に抵抗しようと思わなくなった。 「あ・・・ぅ」 「可愛い声だね」 成歩堂は自身の前を寛げ、そそり立つ陰茎を取り出す。 少し濡らしただけなのに、御剣の秘所は難なく、成歩堂を受け入れた。 「気持ちいい。御剣の此処」 繋がった箇所を成歩堂は指でなぞる。 御剣の身体がびくびくと反応する。 ぴっちりと締め付けてきて、煽動する内壁は、欲望に直結する快楽をダイレクトに与えてくれる。 「こうやって、男を虜にするんだね」 つん、と立った胸の先端を弄ると、細い声が漏れる。 身体全体が性感帯になったかのように、何処に触れても、御剣は鋭い反応をかえした。 「淫乱な身体だね。でも、好きだよ、御剣」 ゆっくりと律動を開始する。 御剣の腕が成歩堂を引き寄せるかのように背中に回された。 「気持ちよかった?」 事後、成歩堂は無邪気な笑顔で御剣に問いかける。 「気持ち悪い」 中に残った残滓も、流れ落ちるそれもいままでにない体験で、御剣は不快だった。 「ちゃんと洗ってあげるから、ね」 ぐちゅ、と音がして、成歩堂の指が侵入してくる。 「慣れたらこっちのほうが気持ちいいって言うようになるよ」 押し広げるように動く指。そして、零れ落ちる成歩堂の欲。 「でも、ぼく以外とは駄目だよ」 そのうちに、性行為じたい、成歩堂以外としたくないと御剣が思うようになればいいと思った。 でも、恋とか愛とか、そういう感情を未だ抱いたことにない御剣には当分無理だろうな、とも感じていた。 自分の御剣に対する過度の執着心さえ、御剣は何とも感じていないのだろう。 ぼんやりとした表情のまま、横たわる御剣の頭を、精液のついていないほうの手で撫でる。 「御剣、大好き」 「・・・私は・・・きみのことをそういう風に思っていない」 「知ってるよ」 「ぼくは二人分、きみを好きだから、いいんだ」 きみはそのままでも構わない、と成歩堂は呟いて、御剣の身体を抱き締めた。 |