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「きみは私のことが好きなのかね」


突然の質問に、ぼくは呆気に取られて、ようやく、その意味を飲み込んで・・・
あまりにも御剣が言いそうにない言葉だったので、びっくりして、すぐに理解できなかったんだ。

「え・・・?好きだけど」

好きじゃなきゃ、きみの行方を追ったりしないし、こんなに頻繁に足運んだりしないだろ。

「そうか」

「そうだよ。御剣だってぼくのこと好きだよね」

次の御剣の言葉はちょっとした衝撃だった。

「それはそうだが、友人としてだ」

「・・・ちょっと待て」
友人としてってどういう意味だろ。わざわざ強調していうことなのか?

「きみもそうだろうな」

違う、という答えは認めないという勢いで半眼で睨みあげられる。

「どういう意味だよ」

「きみが・・・きみの私に対する好意が行き過ぎているという話を聞いて、な」

御剣が視線をそらす。その頬が僅かに赤くなっていることをぼくは見逃さない。

「きみが、私に想いを寄せているのではないかと邪推されたのだ」

「だから、はっきりと聞いて誤解を解いておこうと思ってー」


ぼくは御剣の顔を両手で挟んで、こちらを向かせる。

「誤解をとかなきゃいけない相手なの?」
ぼくに想われている、もしくはぼくと両想いであると思われたら困る相手、だとしたら。
それは御剣の想い人ということになる。
何だか、ちょっとムカついた。

「そういう意味では・・・きみは困るだろう」

「じゃぁ、そのままにしとけよ。ぼくは困らないから」

「成歩堂」

「何なら、本当にすればいいよ」

誤解されたら困るというなら、誤解じゃなくて真実にすればいい。
きっと御剣を可愛がってる上層部とか、慕ってる周囲の、ぼくに対するやっかみみたいなものだろう。
御剣に虫がつく前に、ちょっとはっきりさせたほうがいいかもね。

「だって、ぼくは友人としてもきみが好きだけど、それ以上にも思ってるから」

「成歩堂!」

御剣の言葉を封じるように、唇を指で押さえた。

「ぼくは嘘は言ってないよ。今までも、そしてこれからも言わない」

片手を御剣の後頭部にあて、逃げられないように。

「友人として、御剣怜侍が好き。でも、出来れば恋人にしたいと思ってる」

唇に押し当てた指を離し、その指を自身の唇にあてる。
御剣と、間接キス。

一瞬後、そのことに気づいた御剣の顔がぱぁっと赤くなった。

動揺したその隙に、本当に唇を奪った。

一秒も触れ合わないキスだけど、御剣には充分な衝撃だったみたいで、唇を動かすだけで、声になってない。
そんな様子が可愛くて、思わず、頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。

「これで、きみはぼくの恋人だよ」


「な、・・・キスくらいでッ」


「御剣がいいって言うなら、すぐにでも、それ以上をしてあげるけど」


御剣は固まって、

「遠慮するッ」

ぶんぶんと首を横に振る。


「そうだね、ゆっくり、慣らしていかないと辛いから」

「辛いってなんだ!きみは一体何を考えてる!」

「そりゃ、きみのことに決まってるだろ」

涙目になってくる御剣も可愛いな、と顔がにやけた。

「わ、私にはそういう性癖はな、いからッ」

「わかったよ。じゃぁやらない。でも、恋人だからね」


何もしない、ということに納得したのか、御剣は何も突っ込まない。

ツッコミどころ満載な台詞を吐いたんだけど、気づいてないのか、御剣はほっとした表情を浮かべた。

ゆっくり、ゆっくり、きみを絡め取っていくつもり。
きみに逢えない十五年の時間に比べれば、きみの隣で距離を縮めるのはとても幸福な時間だと思うから。

あと数年もしないうちに、きみをぼくに依存させてあげる、とぼくは心の中でひとりごちた。