一部抜粋です。

「私は非常に忙しい。仕事の来ない暇な弁護士とは違う」
「…わかってるよ」

 ーなんだ、そうなのか
 方程式が解けた。

 仕事が山積みでも、残業があっても、すぐに仕事に戻らなければならないような僅かな時間だけでも訪れてくれるのはー
「きみもぼくのことが好き?」
「そう。キスしてもいいと思えるのは成歩堂、きみだけだ」
「どうしよ、すごく嬉しい」
 遅ればせながら心臓が高鳴って、破裂するんじゃないかと思った。体温も上がって、頭がくらくらした。知恵熱が出そうだ。
 御剣が再度、上体を乗り出した。
 顔を僅かに傾けて、唇を重ねた。
 御剣の柔らかな舌で唇を舐められて、成歩堂はその舌を軽く唇で食む。滑らかに侵入してきた御剣の舌。互いの舌先を擦りあわせる。つついて、離れて、絡み合って、舌が目に見えない場所でエロティックなダンスを踊る。
 御剣の眉が寄せられた。成歩堂の口内、歯と頬の間に硬いものを見つけた。舌先でそれに触れるとー
 御剣が顔を背けて、キスを終わらせた。
 成歩堂は名残惜しく、御剣の唇を追うが、御剣の掌で口元を押さえられた。
「成歩堂…それの所為か」
 成歩堂はえへへ、と笑った。
「道理で。…レモンの味などおかしいと思ったのだ」
 御剣は成歩堂の机に目を走らせる。ガラスの瓶を見つけた。色とりどりの丸いものが透けてみえる。
 瓶をとりあげ、底面のラベルを見る。原材料に糖類と様々な果汁。
「本当は、酸っぱいからレモンは苦手なんだよね。でも、今日から好きになれそうだよ」
 御剣の手を瓶ごと引き寄せて、成歩堂は甲に唇をあてた。
 瓶を受け取って、蓋を開ける。半透明の黄色の果実色の飴を選んだ。指でつまんで、自分の口に放り込んだ。
「御剣も食べる?」
「頂こう」
 御剣は瞳を閉じて、成歩堂のキスを受け入れた。